その日はやけに天気が悪かった。今にも雨が降り出しそうな乱層雲がこの街を包んでいて不気味だった。
 そしてまた、そんな悪天候を映したように、授業を受ける生徒たちの目もまた、死んでいた。そしてそんな生徒たちを教える御島先生もまた、死んでいたのだ。
 わからない。私も死んでいたかもしれない。ふと横に目をやると、相変わらず何を考えているのか分からない表情をして、シャチくんが前を見て授業を受けている。いや、授業じゃない。講演会だ。先生の独壇場。

「このクラスの九割は獣人ですね? 愚かで汚い獣人方。私という人間に教えてもらうことでしか知能を発達させられない馬鹿共」

 それは考え違いだよ。だってこんな肉食獣の集まりの中で喧嘩を売っちゃうあなたのほうがよっぽどお馬鹿。
 それでも彼らがあの馬鹿を攻撃しないのは“腹が減っていないから”である。基本無益だと感じる殺生はしない肉食獣。本来なら本能なんて学校では出さない。みんなたらふく食べて登校しているので、気づいたら僕が彼女を殺していた、なんていう展開はありえないのだ。それに先生なんて殺しちゃいけない。これは人間にも通ずる当然のルールである。

「クラスに唯一いる人間……あなたですね、あなたは可哀想ですね。こんな臭い獣共に囲まれて生活しなければならないなんて。それに見てみなさい。あなたの横にいる図体がでかいの」

 先生を見下していた私の身体がぴくっと反応する。……シャチくん?

「彼はこの世界で最も恐るるべき獣人、いつ殺されてもおかしくないのですよ? そんなのと授業を共にしていると考えるだけで寒気が走る……」
「……っ! やめてください!」

 私は強く机を叩くと立ち上がった。先生は静かな教室に音が響いたのが驚いたみたいで、さっきまでの饒舌が嘘みたいに床にへたり込んだ。

「さっきから……いや、ずっと前から何なんですか!? 獣人が獣人が獣人が! そればっかりじゃないですか! 獣人だから何ですか!? 獣人は私達ニンゲンと同じように考えたり感じたりすることができます! 私達とそんなに変わらない! あなたみたいに不条理を必死に相手になすりつけるような“ニンゲン”の方が、ずっと獣だ!」

 一気にそう言ってやった。言った直後、自分でも何を言ったか、よく覚えていなかった。でも、なんとなく予感はした。“ああ、修羅場が起こる”と。

「……ッッッククク……あなた、何を言っているんですか?」
「あなたはおかしい、イカれている」
「ハハハ……私が獣??? 獣??? あの??? 忌まわしい??」

 目が抉れるほどにまで大きくなって、今にも内側から臓物ぶちまけて爆発してしまうのではないかと不安になった。それくらい彼女は狂っていた。イカれていた。

「もう一度聞きます……あなたは、獣人に肩を貸すと??」
「はい、あなたのような頭のおかしなニンゲンが、“そんなこと”を語る資格なんてない、と思います」

 わからない。何があったんだろう。私の目の前で風が飛び交っていた気がする。髪がぶわっと空中を跳ねて、わずかに擽ったい感じがしたのだけは分かった。
 多分、ナイフだ。鋭利なものが私目掛けて飛んできてる。そしてイカれた御島先生の顔も、こっちに近づいてきてる。怒りとか、許せないっていう感情が一方的にこっちに向かってきて、私には恐怖が体中に向かってきているような気さえした。

 私は恐怖に目を瞑った。直前、シャチくんの手が見えた。



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