「ねえ、凛子とヤッたの?」

 会ってそうそうこんなことを聞いてくる女は、間違いなくイカれているし、

「するわけねーだろ、あんなごぼうと」

 面倒くさい。でもそんな女を好きになってしまった体たらくが俺なのだから、しょうがない。
 街は相変わらずの閑散っぷりだった。俺はこの街が好きじゃない。何もない街だ。遊ぶところもヤるところもなければ、住んでる奴の愛想もない。あいつは、美味しいコロッケを売っている商店街の一店を知っていると喜んでいたから、きっと好きなんだろうけど。
 だからそんな街の秋には、とても物悲しいものがあった。ひゅうぅと椛を攫っていく乾燥した風。今世界を眠らせようとしている太陽が、何故最後、沈むときが一番綺麗なんだろう。

「ねえ、シャチくんって私のことすき?」

 手すりを掴むあいつの、微妙な距離を縮める。そして頬にべろりと舌を這わせてやる。あいつはこれをすると、いつも舐められた頬の方に手を当て、両頬を真っ赤にして、俺を反抗的な目で見る。
 でも今日はどれも無しだった。しんだような魚の目で、秋空の中沈む太陽を見るだけ。
 俺は大きいため息をつくと、言った。至極、つまらなそうに。

「ああ、好きだよ」
「さいですか」
「他に訊きたいことあったんだろ?」

 彼女がこちらを向いた。頬が真っ赤だったのは、きっと寒さのせいだろう。それか、この汚い街に蔓延る太陽が沈むせいだ。
 俺をじっと見るあいつは、きっと俺が何を考えているか伺っているに相違ない。バカだな、俺を見ても何も分かるはずがないって、教えてくれたのお前なのに。
 諦めたのか、太陽の方を見て、目を伏せた。そして静かに、

「……うん」

 頷いた。そして、すぅと息を吸うと、彼女の美味しそうな、小さな唇が、ゆっくりと、確かに動いていく。

「シャチくんのすきって、どういう意味?」

 それは、あまりにも単純な疑問だった。何故今更彼女がそんな下らない疑問を抱くのか、俺には理解し難かった。だって、俺達恋人同士だぜ?

「すきはすきに決まってんだろ」
「だから、それってどういう意味?」
「愛してるって意味だよ」

 ここまで言って少し気恥ずかしくなってきたが、こいつはまだ納得していないようで、俺のことなんてお構いなしに疑問を投げかけてくる。

「わかんない、シャチくんのすきって」
「俺もお前のことわかんない」

 俺は好きなのに。こいつのことが好きなのに。なのにどうしてこいつは分かってくれない。
 “それは俺が化け物なせいだからさ”と心の中で誰かが言ったところで、この話はもうおしまい。



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