ありきたりなフードコートに、私とシャチくんがいた。いつもならバーガー数個が目の前にあるところだが、今日は違う。なんとなく甘いものが食べたくて、柄にもなくいちごパフェを頼んでしまった。ハンバーガー担当はシャチくん。私の倍以上のバーガーが目の前にあるのは当然か。

「なんでそんなに?」
「んあ、飯にしちまおうと思って」

 ああ、なるほどね。か細いスプゥンで、生クリームに絡まり無残にチョコレートの血を流すバナナを助けだしながら駄弁る。
 すると急にぴたりと会話が止まった、かと思うとじっとこちらを見据えてくるシャチくん。

「お前って美味そうに物食うな」

 冷やかしですかい。

「うっさいな」

 前も言ったけれど……脳内でだけどさ。シャチくんが私みたいなデブに魅力を感じていても、私はこの容姿に劣等感しか感じてないんです。だから食い物とか、デブとか、豚とかそういう言葉に異様に敏感なんです。私のこと囃し立ててるのかな。それとも口説いてるの? どっちにしても私が不愉快なのに気づいて欲しいんですけど。って思っても不満は心に募るばかり。しょうがないよね。口になんて出せないよ。だって囃されてるときだって私、幸せだって思い始めてるんだから。

「パフェ一口ちょうだい」
「えっ」

 幸せをかみしめていた直後に、これ。鬼畜もいいところだ。どれだけ私を幸せにすれば気が済むんですか、シャチくん。

「肉食獣なら、甘いモノよりハンバーガーのほうがいいんじゃありませんの」
「いや」

 たった二文字で否定された。彼はべらべらと理由という名の言い訳をするわけでもない。潔いところがまた好きなんだけれど。いや、好きだから好きなのか。これって至言じゃね。

「……やだ」
「なんでだよ」
「全部食べたいの」
「ハンバーガー一個と交換」

 ごめん、今ぶっちゃけ揺らついた。

「今はだめ」
「なんでだよ」
「人が見てる」
「見てねぇって」
「でもハンバーガーはもらう」
「えっちょっおい!」

 テーブルに無防備に置かれた、ハンバーガーをひったくると、味気ない包装を勢い良く剥がしてがぶりついた。なんで彼はこんなに魅力的なんだろう。見た目はこんなに醜いというのに、肉魂だというのに、どうしてこんなに美味しいんだろう。
 そこではっとする。あ、なんかこれ、私っぽい。私ってハンバーガーだったんだ。へぇ。
 新たな発見に感動していると、カチャカチャとスプゥンの金属音。

「あっお前!」
「お互い様だろ」
「生クリームついてる」
「お前もソース」
「ちょっ何しようとしてんの」
「直接舐めとってやろうと」
「あのねぇ、そんなの捕食シーンにしか見えない」

 中指でソースを取り、ぺろりと舐める。シャチくん、君はもしかして、とんでもないやつなんじゃないか。ぼけっとしてると本当に、君に食われてしまいそうで、私はびくびくしてばかりだよ。だって心臓がこんなにどくどくしてる。
 手が勝手に動いていた。シャチくんの口がぴくって動いて、鋭い歯までゼロ距離。こわかった。
 でも私はやったのだ。生クリームを、凶悪な歯から遠ざけてやることに成功した。
 さぁ、お口へお入り。ここはとっても温かい。

「……あ」
「ついで」

 なんだか今日の私はちょっと変だ。シャチくんが怖かったのなんて、始めだけだったのに。どうして今更怖気づくの。それになんでこんなことをしたの。私、こんなことできない。普通の私ならこんなことできない。
 今日はなんとなく甘いものが食べたかったんだ。キスっていちごの味なのかな、なんて考えた途端、身体が熱くなって、例の助けた生クリームの味が、口内にじんわり滲んでくる。
 やっぱりジャンクフードなんて食べるものじゃないな、と原因不明の病気に熱を感じながらぼんやり思った。



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