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U17合宿@日本

立海の幸村が、いつも肩にかけるだけのジャージに袖を通していた。確かに今朝はいつもより寒いようだ。しかし気になる点がもう一つ。そのジャージのチャックが上まで上がっておらず、不自然な低い位置で止まっている。

「あっおはよう跡部。これチャック噛んじゃってさぁ、助けてよ〜」

ジッパーをつまんで上下にぶんぶん振る幸村。寝起きだからか、言動がいつもより幼いように感じる。

「おいやめろ伸びるぞ、貸せ」
「やった」

顔を近付けてよくよく見てみると、チャックが生地にガッチリ食い付いていた。これは力技ではどうにもなるまい、面倒だが上手く生地をひっぱり出していくしか…いや、何故俺様がこんなことをしなくてはいけないのか?ふと我に帰る俺の頭上で、幸村が大きなあくびをした。

「跡部部長おはようございます。どうしたんですか」
「なんでもねえすぐに行く」
「そうですか、じゃ。」

目線は手元のまま、日吉にそう告げる。面倒だが今はこれをどうにかしなくては。

「日吉くんってさあ、2年生なのに背高いし大人っぽいよね」

日吉の背中を見つめながら幸村がそう言う。チャックはあともう少し。

「確かにお前んとこの2年はガキっぽいな」
「ほんとそれ」

そろそろ朝食のために食堂に向かう奴らが増え出す頃合いだ、あまり多くに見られる前になんとかしたい。

ピロリーン

携帯のシャッター音がするほうに目線をやると、仁王がにんまりと携帯を構えていた。

「てめえ仁王なに撮ってやがる」
「いや撮るじゃろ、この状況」
「仁王仁王!それあとで俺に送っといて!」
「おっけー」
「おっけーじゃねえしなんでだよ」

ついつい指先に力が込もってしまったが、そのおかげでチャックが直った。ジャッと一番上までキッチリと閉めてやると、幸村は「すご、直った」と目を丸くした。

「次はねえからな」
「俺、跡部がモテる理由がわかったよ……また頼んでいい?」
「次はねえからなと言った」



数日後の朝、部屋を出ると目の前にしょんぼりとした表情の幸村が立ち竦んでいた。まさかと思い目線を下げると、どうしてそうなった?と言いたくなるくらいジャージのチャックが噛み合っていなかった。見なかったことにして置き去りにする。

「跡部〜」
「自分でなんとかしろ、こっち来んな」
「自分でなんとかしようと頑張ったらこうなったんだよね」
「威張るな」
「あとべ〜」
「ああもううるせえな!てめえは一生肩にジャージ羽織ってろ!袖を通すな!」
「それじゃあ寒いよ…冬の肩ジャージ、寒いよ…」

急に立ち止まり下を向く幸村。そんな姿を見て俺が同情するとでも思ったか?
鼻で笑い、廊下の曲がり角まで行くも一向に動かない幸村を振り返り、結局踵を返してチャックと格闘している俺。なぜなのか。


170328
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