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切原 中学3年 8月


"せんぱいたちに会いたい"
一人部室に残って日誌を書く赤也は、ページの隅っこにひっそりとそう書いた。本人もそれは無意識だったらしく、数秒後にはっとした顔をして消しゴムを握り、その小さな弱々しい字を消した。その顔は珍しく眉を下げ、何かを思い出しているようだった。

赤也には、俺が見えていないようだ。見えたら見えたで面倒なことになりそうだけれど、こうも気付いてもらえないと寂しいものだ。俺は赤也が日誌を書いている机に顎を乗せて、彼を見上げた。

「字、相変わらず汚いね。やばいよそれ読めないよ」

一年前と全く変わらない雑な字を見ながら、俺は赤也に話し掛けた。だけどその声は本人に届くことなく、空気と飽和して消えてしまった。一方で赤也はペンを数回だけ回し、またノートにペンを走らせる。西日で照らされた横顔は一年前より少し大人びていて、一年という月日の流れを感じた。14歳の俺と14歳の赤也。いつも俺の後ろを歩いていた赤也もついに俺と同い年になったのだ。その成長に俺は少しだけ頬を緩める。だけどまた眉を下げはじめた赤也の表情を見て、だんだん俺の表情も険しくなっていくのだった。

「何か悩んでいるのかい?」

赤也は、シャーペンの芯をカチカチと出しては引っ込め、また出しては引っ込めという作業を数回繰り返した。それは何か考えているときに見せる癖だった。当然赤也が先程の俺の問いに答えることはなく、それから数分間、俺はずっと赤也の雑な字をぼんやりと見つめていた。ふと気付くと、赤也の顔を照らしていた西日はだんだんと傾いてきて、今その光は俺へと注いでいた。しかし俺の体がオレンジ色に染まることはなく、光は俺を貫通して床を赤く染めた。ああ、影でもできてくれれば赤也は俺の存在に気付いてくれたかもしれないのに、なんていう自分勝手な期待も打ち砕かれた。

「お前に今更頑張れとか言う気はないよ、俺の分までとか、押し付けがましいことを言う気もない。だけど、お前は自分が思っているよりずっと強い子だから、」

きっと大丈夫だよ。最後のほうにいくにつれて、声が小さくなっていくのが我ながら情けない。赤也は一瞬俺に気付いたようにはっと顔を上げたかと思えば、またゆっくりと日誌に視線を戻した。

ああ、俺がまだ生きていたら。なんて。

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