error | ナノ
「はいここで幸村くん登場、お前クラッカー鳴らす、俺ケーキ持ってくる、他の奴らはイエーハッピーバースデーフゥー!みたいな?」
「キングオブアバウト丸井」
「なんだと文句あんのか仁王」
「お前の案は普通すぎてつまらん」
「んじゃなに」
「幸村に俺ら二人がブチ切れて幸村がオロオロした時に部室真っ暗にしてケーキ登場クラッカーぱーんハッピーバースデーフゥー!」
「はっ、幸村くんがオロオロするとか」

片腹痛いわ!と丸井先輩の声が教室中に響いた。俺はそんな二人を見ていて片腹痛いのだが、いかんせん当の本人等は楽しそうなので水を差す気にはなれない。そんな二人がああでもないこうでもないと口論する一方、真田副部長と柳生先輩は読書をし、柳先輩はケーキに蝋燭を刺している。その数15本。丸井先輩が作ったケーキはまるで売り物のように綺麗なのだが、中央に置いてあるチョコプレートのせいで手作り感が十二分に表れていた。約一時間前、ケーキを作る丸井先輩を羨望の眼差しで見つめていた仁王先輩が俺もやりたいと駄々をこねるものだから、しょうがないなと授けた仕事がチョコプレートに字を書くというものだった。今思えばその選択はミスである。できあがったチョコプレートは残念としか言いようがない。辛うじて読める文字が「15さいだね!」だけなのだ。幸村部長もそうだね!としか言いようがないだろう。

「はい幸村くんがここでドア開ける、お前クラッカー、皆わーおめでとーぱちぱちぱち」
「ちょい待ち、クラッカーなんかあれだ」
「なんだよ」
「ちょ柳生、本番俺の耳塞いで」
「なんでですか」
「こわい」
「仁王きもっ」
「俺でかい音苦手じゃけぇ」
「んじゃクラッカー係交代。赤也やって」
「俺っすか」
「え、やだ俺クラッカー!」
「なにその異様なまでの執着」
「俺クラッカー!」
「よしよしわかったお前はクラッカーだ」
「うん」

「ごめーん遅れたー」

皆の、はっと息を呑む音が聞こえた。今この場にいてはならない幸村部長がお出ましになったのだ。今の時間はまだ委員会なのでは…?と皆思ったことだろう。そこからはもうスローモーションである。仁王先輩が幸村部長を扉の外に押しやり、バンっと素早く扉を閉めた。廊下からはいってーという幸村部長の声が聞こえる。尻餅を付いたのだろうか、もしそうだとしたら後が怖い。それは仁王先輩も同じらしく、心なしか顔が青冷めていた。

「やややばいぜよ」
「続きはWEBで!」
「丸井しね」
「もういいじゃんネタばらししようぜ」

涼しい顔してドアを開けた丸井先輩は幸村部長に笑顔でこう言った。幸村くん!誕生日おめでとー!尻餅をついたままの幸村部長はびっくりして目を見開いた後、あははははと声を出して笑った。なんだ、そういうことか、と言う幸村部長は年下の俺が言うのもなんだけど、少し幼く見えた。
パーン!と予定より数秒遅れて今鳴ったクラッカーはもちろん仁王先輩が鳴らしたもので、遅いんだよ!と丸井先輩は怒る一方、幸村部長はまた笑っていた。そして運ばれてきたケーキの文字を見て一言こう呟いた。

「うん、15歳だね」

100321
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -