本音を言い合う5秒前




お前はこんなにも傷ついていて、俺はそれにとっくに気付いていたのに何もできなくて、なのに悠々と広がるこの世界の空が、憎くて憎くて堪らない。



「ん…、ふぁっ…」

くちゅ、と唾液が溶け合い、交じる音がする。深いキスをしていると分かると、尚更出て行きにくい。
しっかりと後頭部を支え、それで何とか膝を折らずに立っていられた。


「っ、はぁ……おとなし、さん…」

「……直井、かわいい」


とろけるような声に甘い言葉。
この物語は始まったばかり。お前はこれだけの行為で傷つき、今その傷は癒えぬまま過ごしているんだ。


2人が何やら話し、どうやら片方はこの場から去ったようだ。それを見計らい、俺は出て行く。

「よ、直井」
「……貴様か。また見ていたのか? 趣味の悪い」

唇を制服の袖でごしごし拭い、顔を見合わせる。やはり綺麗な顔立ちだ。

「お前が音無のものじゃなかったら俺のにするのに。残念だ」

男のとは思えないほどサラサラな髪の毛を触り、頭をぽんぽんと軽く撫でる。
直井は少しくすぐったそうに目を細めた。

「…僕はものじゃない」

「まあそう言うなって、」


細い腕をグイ、と引っ張りキスをした。
音無としていたものを塗り替えるように、より深く、深く。
舌で歯列をなぞり、絡めとる。直井の口から再び甘い声が聞こえたが、構わず続ける。

暫くして唇を離すと、口に収まりきらなかった唾液が口端から垂れ、表情がエロい。


「…ごめん、直井。本当にごめん」
「貴様が謝ることではない。僕も悪い」
「ごめん、ごめん」


そっと抱きしめると、抱き返してくれた。
ふわりといい香りがして心地良い。



「……このままじゃ、俺がもたねぇよな」

悪い、と呟き離す。

そして、それまでのくだりを――音無が見ていたことに俺は気づいていた。


「なあ直井、俺と付き合わないか?」

「………」

「俺さ、お前のこと、結構本気で好きなんだよ」


「……アホだな、貴様は」

その顔はどこか嬉しそうで、俺は勝手に肯定と受け取る。

ドアの隙間から覗く音無を横目に見ると目が合い、ふっと微笑んだ。




さあ、今からがいい所なんだ。あとは直井が俺に好きだと伝えるだけ。

そうすれば、音無なんて絶望に呑み込まれてしまうんだ。




それでいい、なんて。――思うに決まってるだろ?




fin.



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