支配巻と完迷




自分に向けられた、生々しい肉欲。

一度だけ繋いだ手はぬくもりをなくし、冷たくなっていく。そんな思いを、いつまでも大切になんかできやしない。

「…っ…、…は…」
「…大丈夫か?」

心配の欠片もないその言葉に、果たして意味はあるのか。

「…い、いたっ、い……ぁ、ああっ…!」


女のように高い声を出す、という演技は得意だとでも言うように発せられる言葉を聞き、それと同時に心に雪のように降り積もる愛と嫉妬。
その気持ちを誰に抱いていたのかすら忘れてしまい、今もさ迷い続けていた。

いつまでも完成することのない迷路に入ってしまった。



感情は、なく。



「なぁ、……おとなし…」


「?」

薄く開いた唇は乾き、自身の欲さえも失っていった。


「…もっと、だ」


『ずっとずっと、ずっとずっとここにいるつもりなら抱いてくれ、早く。』

刹那、頭を強く打った感覚に陥る。
目の前がくらくらして、すぐ側に誰がいて何があるかすら分からない。
ぐるぐる、ぐるぐる。
不思議な浮遊感と不思議な支配。



渦巻きは大きくなり、消えて――









気づけば、そこは自分の住む寮だった。
二人部屋を一人で使うという、何とも贅沢なものだ。




(……ああ、また夢か…)


体はだるく、生々しい欲望と劣等感。非常におかしなものだと思う。まだあの夢の感覚を覚えていて、早く忘れたかった。



(なんで、よりによって……野田、なんだよ)



(せめて他の奴なら…)









――早く、忘れたい。



脳裏に浮かぶ紫色したアイツを思い出しながら、そんなことを考えた。




fin.




精神不安定な音無は夢で野田を抱き続けるんです。夢遊病によく似たものみたいな設定





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