ばか、そんなんじゃねーよ




昼寝の最中。
と言っても本当は起きていたが、誰かが近づいてくる気配がしてそのまま寝ているふりを続ける。

「…おい、野田」

この声は藤巻か。

「起きろ、ゆりっぺが早く来いだとよ」

ゆりっぺが呼んでるなら早急に飛び起きて行きたいところだが、ぐっとこらえて眠るふり。少し心が痛むが、藤巻の反応が見てみたいが故だ。

「おーい野田、起きてんだろ? 早くしろ」

若干キレてきてるな。全く、これだから気が短い奴は。

「いい加減にしねぇとぶった斬るぞ…?」

多分、長ドスを構えている。だが俺はまだ起きないし、起きるつもりもない。

「………おい、本当に起きないと……」

起きないと、そこまで言うなりそれっきり、言葉がつまったように何も言わない。まだ気配はある。一体何をしているんだ?

「…………キ、キス……するぞ」

なんてベタな展開なんだ。しかし、どこかでそれを微かに期待していた自分がいた。そもそも、「起きないとキスする」なんて言ったのが好きな奴だったら、起きようとしていたものも起きるはずがない。

「………」

少しだけ遠かった気配は完全に近くなっていて、僅かに藤巻の匂いがする。
さらに藤巻の匂いが近づいてくる。恐らく、キスをしようとしている。
少しばかり勿体ないが、自分でも意地が悪いという自覚もあったが、ぱちりと目を開く。すぐそこには、真っ赤な顔をした藤巻の顔があった。…可愛いな。

「…野田、やっぱりお前、起きてたんじゃ――」
「なんだ、藤巻。人が寝ている間に襲うつもりだったのか?」
「なっ!」

さらに赤く侵蝕されていく藤巻。

「誰が襲うかよ! お前が早く起きるように、…その……」
「そんなこと言って本当は、」
「ばか、そんなんじゃねーよ!」

そんなやりとりをしながら足を進める。早く、ゆりっぺの所(校長室)へと行くとするか。

「…にしても、珍しく大胆だったな。藤巻」
「! やっぱり起きてた――」

その先は言わせないとばかりに、少々荒っぽく藤巻の唇に噛みつくようなキスをした。


fin.




by 確かに恋だったさま



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