好きって言うまで離さねぇ




いつものように過ごしていたある日。いつものように校長室へ行き、早口で合い言葉を言い、扉ら開ける。中には野田が一人いた。どうやら俺が来たことに気付いていないらしく、さっきからそわそわと落ち着かない様子で歩き回っていた。あまりにも不審すぎる。

「…おい野田、どうしたんだ?」

そう声をかけると、心底驚いたようでびくっと肩を上がらせてからハルバードを俺に向けて、

「! いっ、いつからいた貴様!」

いつからって、ついさっき来たばかりだ。そう伝えると、「不覚だった…」とか何とか呟いていた。

「ところでさ、何をそんなに落ち着いてないんだ? いつものお前らしくない」
「…い、いつもの……俺らしくない…!?」

何故か野田の頬は赤く染まっており、鋭く睨めつけてくる。相変わらずハルバードは俺に向けられたままだ。むしろ、より近くなっている。

「貴様……いつもの、って…いつもの俺というのは…」
「ああ、ゆりに一途で従順な鍛練好き」
「…おい貴様、……なめているのか?」

何をなめていると言うんだろうか。俺はただ、正直に答えてやったまでだ。野田はがっくりと肩を下ろしたように、そのまま俺に近づいてきた。すでにハルバードは野田の手から離されていて、今は机の上に置いてある。
近づいてきた野田に、何だ、と問いかけようとすれば、意を決したような顔をしていて、何故だか言葉が出なかった。

「…貴様には、その……好きな奴、…いるのか?」
「は?」

思わず口をついて出た言葉。正直、今の野田は少しどころではない、かなりおかしい。いつもなら俺に対してものすごい警戒をはってくるのだが、そんな気配は全く感じられず、むしろちょっと緊張したような顔で真っ直ぐ俺を見ている。どちらかと言えば今の方がありがたいが、慣れというものか、とてつもない違和感。

「んー…そりゃ、好きな奴の一人や二人は…」

その発言に、野田は赤い顔を今度は青く染めた。なんだその変な顔は。まるでこの世に大きな絶望を感じ取り、全てが終わったというような顔をしているぞ。

「…分かった、俺が悪かった。もう貴様などには聞かん」
「? ああ、」





それから暫く数十分ほど経ったのだが、SSSのメンバどことなくーなど、俺と野田以外は未だに誰もいない。どことなく気まずい雰囲気が漂っていたから早く誰か来い、と願うも一行に来ない。よく校長室にいるゆりでさえもいない。
と、そこに、

「お、おい…」

挙動不審に野田が話しかけてきた。

「なんだ? …って、うわっ」

また真っ赤な顔をしてる野田が、今度は俺に抱きついてきた。さすがにこれには驚愕するしかなかった。だって、あの野田が俺に抱きついているんだぞ? 初対面で100回も殺してきた奴が。普通はこんなことするか?

「どう…した、んだ? 野田…お前、やっぱり今日おか――」
「音無」

しい、そう言いかけたら遮られた。初めて野田に名前を呼ばれた気がする。そんなことを考えていると、掠れたような小さい声が聞こえた。

「…?」

その声は明らかに野田の声で。

「どうした、野田?」
「……きだ、」
「え?」
「…貴様が…好き、だ」

「………」
「………」


無言が続く。それを破ったのは野田だった。

「好きだ」

今度はしっかりと言っていた。
ドキドキと、野田の胸の鼓動が高まるのが分かる。いや、これは俺がドキドキしているのか?

「…あ、野田、……」

うまく口が動かない。きっと、今の俺は顔が赤くなっている。

「好きだ、音無…」
「……」

「貴様の気持ちが知りたいだけだ。…まあ、貴様も俺が好きでないと許さんし、離しもしない」

何故だろう。ドキドキする。
日向相手なら冗談で返せたかもしれないが、相手は野田だ。それに、何より――この腕を離してほしくないなんてな。
俺がコレなんじゃないか。

きっと俺は、野田のことが好きなんだ。

でも、「好き」なんて絶対に言わない。だって、言ってしまうと消えてしまいそうで、不安になったから。



fin.




狂犬サンド企画、「噛みつき注意!」さまへの提出作品です。
純情照れ屋野田×若干鈍感音無。なんだかお題に添えてない気がしますが、すみません。






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