性欲旺盛もいいところ




ゆりっぺさんに言われて、校内の巡回をしていた。
巡回と言っても、誰が何をしているかを把握するために歩き回っていただけ。
丁度中庭あたりにさしかかった頃だった。到底話し声とは思えないような――甘い嬌声が。

「…っあ、…ん…ふぅっ…」

どう考えても情事の真っ最中だ。
人がしているところを覗く趣味なんてないし、それどころか興味なんてさらさらない。
だが、私はこの声に聞き覚えがあったのだ。
いつもは低くドスのきいた声をしているから少々分かりにくいが、この声は間違いなく――野田さんだ。
誰としているのかも大体想像がつく。確か、ゆりっぺさんが「音無くんと野田くんって付き合い始めたらしいわよ」と言っていた。
恋人同士だ、死後の世界でも性欲は溜まるらしく、そういういかがわしい行為をしていても何ら違和感はない。ただ一点、男同士という同性の点を除けば。

「っ、大丈夫か? 野田…」

やっぱり。これで野田さんは確実として、さっきの声は明らかに音無さんだ。

「やっ…も、ちょっ……そ、そこは、ッあ!」
「すげ、野田…かわいい」
「…ぉ…となしぃ…!」

それにしても、よくこんな所で堂々とできるものだ。せめて声を抑えるくらいはすればいいのに、甘い声はこの辺りの中庭にだだ漏れだった。

――…そろそろ止めておかないと、いろいろと大変だ。

2人が隠れていた場所へと歩み寄り、草木などを避けて無表情でジッと見つめる。当然、2人は私の存在に気づいて驚愕していた。

「っ……ゆ、遊佐!?」
「へ? っ…あ、ゆっ…遊佐ぁ…!? な、んでっここに…」

私はひとつ冷静に、ゆりっぺさんへ無線で伝えた。

「…ゆりっぺさん、巡回終了いたしました」
『あら、案外早かったわね。ありがと、何か異常はなかった?』
「はい。変わりありません。天使も暫くの間は自ら襲ってくることもないかと」
『そう。じゃあ、さっそく今夜はオペレーショントルネードの予定だから、その準備をしててちょうだい』
「分かりました」

「………」
「………」

呆然と、私を見ながら固まり続けている2人を見て言った。

「…なるべくなら、外での行為はお避け下さい。人に聞いてほしいと思うのでしたら、一向に構いませんが。では」

それだけ言い残してそそくさと早足に帰った私は、その後2人がどうなったかは知らない。




fin.





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