ビタースイーツ よく分からないこの感情が、いつも心をぐるぐると支配している。 音無さんに対するあの気持ちとは少し違い、胸がきゅうっと締め付けられてどうしようもなくなって、どきどきする。 他の奴らと楽しげに話しているところを見ていると、苛立ちが募る。 この僕がこんな感情を抱くなんて。 不覚だ。 「………不覚だ…」 考えていたことが口に出て、今更ハッとなる。幸いにもこの小さな呟きを聞き取った者はいなかった。 と、思っていたら。 「何が不覚なんだ、直井」 「うわっ、お、おとなひひゃん!」 突然だったから吃驚して変な声を出した挙げ句噛んでしまった。失礼にも程がある。 そんな反応を見た音無さんは苦笑していた。 僕はゴホン、とわざとらしく咳ばらいをした。 「音無さん…」 「そこから言い直すのか」 「あ、すみません」 「いや、謝らなくてもいいんだ。…で、何が不覚なんだ。言いたくないならいいけど、何か悩んでるなら相談に乗るぞ?」 そう言って相談役を買って出てくれた音無さんはやはり優しい。でも、それはそれだけで、胸が苦しくなることはない。 悩んでても仕方ないと思い、音無さんに打ち明けることにした。 「……実は…」 「実は?」 「………お恥ずかしい話、最近、何と言えばいいんでしょうか…、こう、……名前は言えないんですが、そいつのことを考えてると胸が苦しくなる、っていうか…」 言葉じゃうまく表せないから、しどろもどろに伝える。音無さんは少しだけ目を丸くして、「ほー…」と感心したように呟いた。 「お前も子どものようで子どもなんだな」 矛盾したようなことを言って、少々がさつではあるものの優しく頭を撫でてくれた。 …何故だ。 「あの、おとなしさん…?」 「ん?」 身長が僕より高いから、当然ながらに座高も音無さんの方が高くて。だから必然的に僕が音無さんを見上げる形になり、若干顔が近くてどきりとする。 さっきからずっとにこにこと優しい微笑みを絶やさない音無さん。 いつもは少しばかり冷たいのに、今日はどこかいつもと違って、違和感を覚えながらもそんなことは言えるはずもなく。 「それで、あの、もうひとつだけ…」 「? 何でも言ってみろ」 「……これって、“恋”なんですかね?」 いたずらっぽく微笑む音無さんは子どもをあやしているようで、子ども扱いをされていると思うと非常にむずむずする。 わしゃわしゃと髪をかき乱して、僕の頭から離れ、にっこり笑って。 「そうだな、恋だ」 「………」 やはり。 多少の自覚はあったもの、改めるとぼぼぼと顔が赤くなった。 「直井は意外と純情だよな」 「…意外、は余計です…」 何だか恥ずかしくてたまらない。 俗に恋バナ、といわれるこんな会話を楽しんでいるのか、女共は。 「告白するのか?」 「…一応。……フラれると大体分かっているので…けじめだけでもつけておきます」 「そうか」 「…今からしてきます」 すくっと立ち上がって意を決した。音無さんが驚いていたようだが、気に留めるわけでもなく僕の想い人の元へと寄る。 「おい愚民」 「んー?」 「貴様に話したいことがある」 僕がそう言うと、周りにいた奴らは物珍しそうな目で見てきた。 「珍しいな、お前が俺に用なんて」 羞恥なんてどこかにすっ飛んだように言った。 「僕はどうやら、貴様のことが好きらしい」 瞬間、空気が冷たく乾いていくのが分かった。 と同時に、音無さんと何故かゆりさんのため息までもが聞こえたがやはり気に留めない。 「貴様は、どうなんだ?」 一口に告白と言っても、あまり緊張しないものだな、なんて頭では呑気に考えながら。 fin. |