女神のようだと思った――



その小柄な体からは、想像も出来ない程の存在感。
風のように軽やかに、だが見る者を勇気づけるかのように力強く舞う姿は、まるで戦場に舞い降りた女神。


白く細い肢体をしなやかに操り、その繊細に動く指先までもが見る者を惹き付けて止まない。

動くたびにふわりと布がひらめいて、残像のように脳裏に映り、涼やかに鳴る鈴の音は、心の奥まで優しく響いて心が温かくなってくる。

自分よりも若干明るい新緑の髪は生き生きとした生命力を感じさせ、動きに合わせて自由に揺れる。

何よりも、楽しそうに舞うその笑顔があまりにも眩しくて。
今まで感じた事の無い程の胸の高鳴りを覚えた――




「……ありがとうございました!」


町の広場の中央で踊り終えた少女がにこっと笑って丁寧にお辞儀をすると、それまで魅入っていた人々がはっと我に返り、割れんばかりの拍手と喝采をその少女に送った。


「……すごいな。話には聞いていたが、これ程とは……」

驚きを隠し切れずに素直な感想を溢しながら、人々に囲まれている少女をセティは少し離れた場所から見つめる。

少女は大勢の観客に質問や賛辞を讃えられ、少し戸惑いながらも嬉しそうに一つ一つ丁寧に答えている。
その姿を自然と笑顔で見つめながら、人々の顔に明るさが戻っていることを確認して、セティはほっと胸を撫で下ろした。


(フィーに感謝しなくてはいけないな……)


ここマンスターの地で、人々は帝国の圧政に苦しめられていた。

容赦無く繰り広げられた子供狩り。さらにはトラキア国より攻め込まれて多くの人が亡くなり、生きる希望さえ持てずに絶望に打ち拉がれていた。

解放軍によりこの地が圧政から解放され人々は歓喜に湧いたが、傷跡は大きく残ってその傷が癒えることはない。

どんな言葉を掛けても生きる希望さえ持てずにいる人々に、何か少しでも出来ることはないかと考えあぐねていた時――解放軍で久しぶりに再会した妹に彼女の話を聞いた。


「リーンの踊りってね、凄く元気が出るの!勇気が湧いてくるような、不思議な踊りなんだ!」


正直驚いた。
踊りにそんな力があるなんて、聞いたことが無い。

半信半疑ではあったが、他に考え付くような事も無かった為縋るような思いでリーンと呼ばれた少女に頼んでみると、彼女は快く了承してくれたのだった。


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