道端に咲いてる草花を、綺麗だなんて思った事はない。

別段華やかな花を咲かせる訳でもなく、特別に愛でる要素なんてとてもじゃないが見つからないからだ。

だけど、強い雨にさらされても、風に吹かれても、例え人に踏まれてぐしゃぐしゃになってしまっても。

めげずに立ち上がるその姿を綺麗だと思えるようになったのは、きっと「あいつ」に出会ったからなんだろうと――
そこだけは、素直に認める事が出来た。


そう、出来た筈なんだけど――






「ご……ごめんなさいっ、パロム!」
「……あんた、絶対わざとだろ」

この俺にそう思わせた張本人は、今日もまた狙いすましたように、俺の頭上に人為的な雷を作って落としてくれた。

頭にサンダー。

こいつがミシディアに来てから、いやこいつと出会ってから――もう何度となく繰り広げられたこの光景。

大体あの戦いの中でほとんどの魔法を習得出来た筈なのに、「あの時は緊張してたから」とか訳の分からない理由で「忘れた」と言われた時には、怒りを通り越して呆れて腰を抜かしそうになった。

しかしいい加減にしてもらわないと俺の頭が禿げる。
いや時々気遣わし気にポロムが見てくる辺り、実はもうちょっとヤバいのかもしれない。

こんな晴天に恵まれた日に、何故雷の直撃を受けなければいけないというのか。
理不尽な仕打ちに溜め息を吐きながら、帯電して膨れ上がる髪をパロムは労るように押さえ付けた。

「罰として、書き取り400ページ。すぐやれ」
「うっ……よ、よんひゃく……ですか?」
「終わるまで、昼メシ抜きな」
「そんなあ」

へたりと腰を抜かして、情けない声を上げる彼女の姿はそれはもう酷く滑稽で。
とても年上の女性とは思えないし、思いたくもない。

「賢者になりたい」とミシディアにやってきた時の勢いは何処に行ったのだろうか、と問い詰めたくもなる。
だがそんな事言っても無駄な事ぐらいは十分に分かる付き合いだから、パロムは無言で彼女に背を向け、重厚に閉じられた扉を勢い良く開け放った。

「ま、待ってくださいパロム!何処に……」
「着替えだよ。誰かさんのせいで、服がボロボロになっちまったからな。何あんた、着替えまで付いてくる気?」
「いっ、いえ!そんな!」

真っ赤になってあたふたと慌てだす彼女は、可愛いというより正直ちょっと面白い。
意地悪く片方だけ口角を上げて、パロムは振り返る事無く大音量を響かせて扉を閉ざした。


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