「――わあ!綺麗……」
「だろ?」

季節は巡る。

清流が見渡せる小高い丘に登ったリディアの眼前に広がったのは、視界を埋め尽くすまでに満面に咲き誇る、色とりどりに揺れる鮮やかな木々達だった。

熟れた林檎のように赤く色付いた紅葉や、ひらひらと枚散る銀杏。
その周囲には黄金色の草花が敷き詰められていて、白銀の薄が波のように厳かに揺らめく。


四方を海に囲まれ独自の文化を築いたエブラーナには、やはりこの地域でしか見れない特殊な植物が根付いていた。

幻想的だけれど地面にしっかりと根を這う姿は、逞しさをも感じさせる。
そんな不思議な光景にすっかり魅入ってしまったリディアの傍らで、エッジは苦笑を浮かべつつも穏やかな眼差しを彼女に注いでいた。

「ほら、あんま乗り出すと落ちるぞ」
「えっ、あっ、大丈夫」
「どこがだよ」

自然が作り出した足場は、ともすれば不安定なもので。
ぱらぱらと転がっていく小石に不安感を抱いたエッジがその華奢な肩を抱くように掴めば、リディアの頬が紅葉のように、さっと紅色に染まっていく。

いつまで経っても初々しい反応に、込み上げるのは愛しさだけ。

緩む頬を悟られないように伸ばした腕に力を込めて、エッジはリディアの華奢な身体を柔らかく包み込んだ。

「……ま、時期は随分変わっちまったが……これはこれでいいだろ?」

少しだけ罰が悪そうに呟いたのは、目の前に広がる風景が、いつか約束した桜の舞い散る景色では無かったから。

それでもこの時期にしか見られない深く色付いた景観をエッジはとても気に入っていたし、何よりもようやく――本当にようやく、リディアをエブラーナに迎え入れる事が出来たというのに、中々二人の時間が取れないことに若干の不満を抱いていたから。

ほんの少し家老が目を離した隙を見計らって、こっそりとリディアを城から連れて抜け出したのだ。

「……うん!ねえ、エッジ。あの花は何ていう名前なの?」

返事なんて聞かなくても、リディアの気持ちはきらきらと輝く瞳がはっきりと語っている。

――可愛い。

ただその笑顔を見たかっただけなのに、「国のことなんて文字で読むより見た方が早いだろう」ともっともらしい言い分を盾にして、エッジは束の間に訪れた二人の時間に心から満たされていたのだった。

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