赤く激しく燃え盛る炎は、嫌が応でも過去の忌まわしい記憶を呼び覚ます――

胸の奥、深く深くにしまってある。季節が何度巡ってもその記憶は変わること無く、今も自分への戒めとして鮮明に焼き付いている。

――後悔と、絶望しか残らなかった記憶。

どんなに悔やんでも、悔やみきれない。失ったものは決して取り返せないのだとその時悟った。どんなにそれが大切でも、どれ程の涙を流しても。

炎が全てを焼き尽くし、奪って行く様をただただ遠くから眺めるだけで、何も出来なかった無力な自分。
これからは自分がこの国を建て直し、この地に住む人々を、その笑顔を守っていくんだと誓っていたのに――

「……なんてこった……エブラーナにまで!」

世界中のどの国をも襲った異変。辺境の地にあるエブラーナとてそれは例外ではなかった。
炎を司る幻獣は今はその意志を無きものとして、この地を再び火の海へと沈めようとしていたのだ――

「……イフリート……!」

リディアの嘆くような呟きも、今のエッジの耳には届かない。

原因を探るために城を飛び出し、ようやくエブラーナに戻ってきたエッジを待っていたのは――いつかと同じように炎に包まれた、変わり果てた故郷の姿だった。
先の大戦がこの国に残した爪痕は大きく、ようやく全てが元通りとは行かなくとも、市民が普通に暮らせる日常を取り戻したのはまだ記憶に新しい話。
そんな復興著しいエブラーナを突然襲ったこの悲劇はあの時の『再現』として、エッジの心を激しく揺さ振った。

――甘かった。やっぱり城を出るべきじゃなかったのかもしれない。
今更そう後悔したって後の祭りだ。最悪の事態を思い浮かべて、冷たい汗がエッジの額をすっと伝う。

エッジは一目散に城内へと駆け出した。城門の兵士の縋るような瞳も、言葉も。共に地上へと降り立った仲間の声すらもすり抜けて、ただひたすらに全力で走る。
脳裏に浮かぶ記憶と、目の前の光景が自分に訴えてくる――何も変わらないと。またしても、自分は何も出来なかったのだと。

王になった。守ると決めた。一番大切なものを後回しにして、それでも守りたいと思った。それなのに現状はどうだ、何も変わらないじゃあないかと。
それはあの頃とまるで同じ――過ぎ去った時を嘆いて、その場に居れなかった自分をただ悔やむだけ。

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