――瞳を閉じればいつだって、浮かんでくるのは満面の笑顔。



花のように可憐で、それでいて、太陽のように眩しくて。
その笑顔に会えるなら、ずっと眠ったままでもいいとさえ思う自分は、本当にいかれているんだろうと心底思う。





「……エッジ……起きてる?」


静まり返った船内で、コンコン、と控えめなノックの音が響く。
久し振りに感じる緩いエンジンの振動を背に受けながら、エッジはゆっくりと瞼を開いた。

ノックの間に少しだけ間が空くのは、昔から変わらないあいつの癖で。

そんなものを聞かなくても足音だけで分かるのに、わざわざ出迎えたりしないのは、
その澄んだ声で自分の名前を呼んで欲しいからだったりすることを、きっとあいつは知らないんだろう。


「……ああ。空いてるぜ」


平静を装ったつもりが、僅かに声が上ずっている。
それに気付いたエッジは苦笑を浮かべながら、ドアの隙間から伺うリディアを手招きで呼び寄せた。

「どうした?こんな夜中に」

おずおずと歩み寄るリディアに声をかけるも、彼女からの返答は無い。
エッジの横たわる簡素なベッドに近寄ると、困ったように首を捻って、ただじっと見つめるだけで。

いくら生き残る為とはいえ、生身で遥か地底へと飛び降りたのだ。甲板に打ち付けられた体は、まだぎしぎしと悲鳴を上げている。

だがそれよりも――
押し黙ったままのリディアの様子が気になり、エッジは己の体を起こすと、彼女の華奢な肢体を柔らかく包み込んだ。

「眠れねぇなら、添い寝してやるけど」
「・・バカ」

からかうように声を掛ければ、途端に頬は膨らんで、不満の色が顔中に広がる。

――ああ、俺の好きな顔だ。

こんな顔ですら愛しいと思う自分に内心呆れつつも、淡い幸福感には勝てずに、エッジはリディアに気付かれないよう、そっと頬を緩めたのだった。

「うん。あのね……その、さっき話そうと思ってたんだけど、エッジ忙しそうだったから」
「ああ……悪い。どうかしたのか?」

抵抗するでもなく大人しく腕に収まっているリディアの声音は、少しばかり寂しそうで。
エッジは申し訳なく思いながら、癖の強いリディアの髪を優しい手つきでそっと撫でた。

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