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貴方と歩く散歩道


『今度の休日、予定開けておいてね。天気が良かったら行きたい場所があるんだ』
 数日前にメローネからのお誘いに、特に予定がなかった私は2つ返事で承諾した。
 服装はスカートでもベネだけど、もしかしたら寒いかもしれないから身体が冷えない格好でねと言われたので、薄手のニットにスラックス、上にスプリングコートを羽織りバッグを持って待ち合わせ場所へと向かった。
「おはよう……その格好ディ・モールトベネ。そして今日の天気もベリッシモベネだ」
「おはようメローネ。晴れてよかったね、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
 待ち合わせ場所にいたメローネは、いつもの露出した服ではなく珍しくまともな服を着ていた。私からの問には、明確な答えをもらえず足を運んだ所が空港だった事に驚愕した。
「大丈夫、大丈夫。国内線で日帰りだし、チケットはすでにオレが取ってあるから」
 ヘラヘラと笑うメローネに手を取られ、私はされるがままになったのだった。

 フライト時間、約1時間で辿り付いた場所は『コロッセオ』や『コンスタンティヌスの凱旋門』など有名な世界遺産があるここはローマ。
「行きたい場所ってローマだったの?」
「うーん、正確に言うとちょっと違う。ここから地下鉄で20分乗った場所が目的地」
「20分乗るのか……」
「時間かかるけど、絶対行く価値あるからっ!」
 だから、ねっ?と上目遣いで頼んでくるメローネに仕方がないなと思ったのだった。

「わぁ……」
 駅から少し歩いた先で、私の目に入ったのは視界一杯の薄いピンク色だった。その色の正体は、私がよく知っている桜の花。先行き一本道には桜が植えられていて、その光景に自分の故郷を思い出す。
「エウル地区にあるここは、その名の通り『Passeggiata del Giappone/日本散歩道』と呼ばれているんだよ」
 景色に見惚れてぼんやり立っている私の隣にメローネが並ぶ。風が吹くたび、煽られた花びらが宙に舞う。一枚の花びらがメローネの黄色の髪の毛に止まった。
「ここの桜はうんと昔、日本の首相が来た時の記念樹としてプレゼントされた物みたいだよ」
「へぇー」
 辺りを見回すと、花見をする人や写真を撮る人、桜の木の周りを楽しそうに走り回る子供達。すぐ近くの湖では手漕ぎのボートに乗っている人がいて、実に穏やかで平和的な世界。
「メローネ」
「ん?」
「今日は連れてきてくれてありがとね。私、ここ気に入ったよ」
「そいつは良かった。オレ腹減っちゃった……あそこに売店あるから行こうぜっ!」
 差し出された手を握り、桜並木を走った。

――暗殺者たちの穏やかな休日になった。

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