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貴方と行った音楽祭


 今私達が来ているの所は、イタリアのボローニャ近辺にあるラヴェンナという町である。アドリア海に面し、世界遺産にされている色彩豊かなモザイク装飾を施した宗教施設が有名な芸術的な古都である。
 本来なら、名物でもある繊細なモザイクタイルを見学したいたい所。だが、ここに来た目的はここラヴェンナで行われる『ラヴェンナ・フェスティバル』だ。毎年5月下旬から7月までの二ヶ月間と開催され、管弦楽・ダンス・オペラ・民族音楽など有名な総合芸術祭である。
 以前、雑誌を読んで行ってみたいと溢していた事をフーゴは覚えていてくれたらしい。『まとまった休みが取れたので行きましょう』と色々と手配をしてくれた。久しぶりの二人きりのお出かけに、心と共に足取りも浮足立っていた。
 今日の開催は夜からだったので、私達は先にホテルでチェックインを済ませた。荷物を預けて身軽になったところで、夕食を取る前に軽い町探索をする事にしたのだった。
 ラヴェンナ通りの看板は1つ1つモザイクタイルで作られていて、全てが違うデザインで見ているだけで楽しませてくれる。中には花モチーフの可愛らしい物があり、思わず欲しくなってしまう。
「お土産品にモザイク調の物が沢山ありますよ。あとでゆっくり見ましょう」
 私の心を読み解かしたのように、フーゴはクスリと笑って少し先にあるお店を指さした。全然気が付かなかったが、お土産屋のようで店先にはガラスケースに飾られたお皿等の食器類やモザイク柄の鞄など幅広い物を取り扱っていた。
「せっかくだから、お揃いのものにしたいね」
 そう言って顔を合わせて笑うと、予約していたお店へと夕食を取りに行った。

 オペラ座の係員にチケット見せて、私達が入ったボックスは舞台がよく見えるなかなか良い席だった。
 フーゴにいくらイベントで少しは安くなっていても、ここだとそれなりにかかったんじゃない?とヒソヒソ声で囁くと、実は今日の為にプレゼントされた物なんだと教えてくれた。だいたい予想ができるプレゼントの送り主に感謝しつつ、私達は幕が上がった舞台に目をやった。
 夕食時に、フーゴも前からこの音楽祭や今観ているオペラ劇を鑑賞したいと思っていた事を教えてくれた。『今まで来たことはなかったのか?』と聞くと、一度家族ではあるけど家族の空気が重たくて楽しめなかったのと、組織に入ってからなかなか時間が取れなかったのもあって私と行くのを楽しみにしててくれたようだ。プリマドンナの伸び伸びとした美しい歌声を耳に入れながらも、フーゴも自分と同じ気持ちでいてくれていた事を喜んだ。
 話の場面がシリアスになり、歌も少し暗くゆっくりな音程になると、私の肩に少し重く温かな物が乗っかった。一体なんだろうとそれを見れば、フーゴが私の肩に頭を乗せて眠っていた。ドキッと心臓が跳ね上がりつつも、薄暗い中で見える彼の顔を観察した。フルフルと震える長い睫毛の下の薄い皮膚が、青黒い隈を作っていた。
 最近仕事が忙しいと言っていたのを思い出し、もしかしたらこの予定の為に急いで時間を作ってくれたのではと把握した。
 気持ちよさそうに眠るフーゴにちょっとだけ寝かせてあげようと肩を貸していたが、突然賑やかになった音楽に彼の仮眠はものの5分で終了したのである。
 
――それでも、そんな出来事も将来は笑ってしまう話の1つになっていたのだった。

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