■ 幼く淡き想いは戻らない

※コンティニューはどの地点から?の二人の視点

『二人って出来ているのか?』
 もう何度目かと思う聞き飽きた質問に、ソルベとジェラートは溜息をついた。自分の半身だと思う人間と一緒にいる事がそんなに可笑しな事なのだろうか。

 陽気で明るいジェラートに慎重で寡黙なソルベは、性格は正反対なくせに思考や趣向も同じで互いにこいつ無しでは生きていけないと思うし、共に居ることが心の底から落ち着く存在だと認識していた。
 女の趣味もどうやら同じで、二人して初恋の相手が一緒だった。同じ孤児院の育ちでその子と交わした言葉は殆どなかったが、ジェラートには可愛らしい花柄のハンカチを、ソルベには小さな絆創膏を貰った事がきっかけだっただなんて、やっぱりオレ達は気が合うよなと夜が明けるまで語り明かした日もあった。二人は15で息苦しかった孤児院を飛び出して、学歴のない野郎が入れたのはマフィア組織だけだった。血の気の多い者達に囲まれて、血なまぐさい世界で二人だけの平和な世界を濃密に作っていた。時には二人で傷を舐め合い、身体を慰め悦に入り浸っていた事もあった。そんなソルベとジェラートが、初恋の相手と再会したのは、組織に入ってから数年月が経ってからである。

 情報チームから届け物をしてきた女は、紛れもなくジェラートとソルベの初恋であった凜であった。幼い時の面影が残っていて、歳を重ねて綺麗になっていた。凜は二人の事に気がついているはずなのに、必死に平静なフリをしているのに苛ついてさっさと帰ろうとする凜の手首を掴んで引き止めた。ジェラートは柄にもなく驚いた凜が可愛らしくて悶え、いざ好きだった人と話す事に緊張してしまい数秒の間言葉が出てこなかった。ビクビクしている凜にようやくいつもの口ぶりで、警戒を解くように話して場を和ませた。ソルベは普段通りに口数は少なかったが、表情は柔らかく短く同意していた。
 時々集まってする飲み会は、いつも非常に楽しい時間だった。その場のノリでジェラートとソルベは、凜を自分たちの間に置いて普段二人でやっているようにベタベタと凜の身体に密着した。最初は硬直していた凜だったが、慣れてしまったらしい。好きな女の柔らかい身体に思う存分触れられるのは嬉しいが、男と見られていないんじゃないかとかこの先の事をもっとしたいという心配と願望が二人には持っていた。任務での情報集めのついでに、凜の家に盗聴器とカメラを仕掛けてそれをおかずに二人で盛り上がったり、部屋中に写真を貼り付けた。できるだけ凜を傷つけたくなくてコソコソと活動をしていたが、彼女を二人で独占して二人で愛でたいという欲求が膨れ上がった。
 三人で暮らせる家を探そう。こんなもどかしい気持ちにならない為に。と言うソルベの提案に、ジェラートは良いアイディアだと賛成して早速物件を探し始めたのであった。

 眠る街に心地よいハイヒールの音が響き渡る。鬼ごっこだなんて童人に戻ったようで楽しいけれど、早く君を捕まえたいと思いジェラートはソルベに目を配わせると、挟み撃ちにする為に二手に分かれた。
 いくら普段ハイヒールに履き慣れていて走ることができても、それは足への負担がいつもよりも大きいだろう。それに、あの細いヒールじゃ折れてしまうのも時間の問題だ。ジェラートは凜の進行先にへと回り込むために、自分の知っている近道とスタンドを使った。二手に分かれて数分もしないうちに、凜の走る音が消えた。きっと、折れてしまい転ぶ前に靴を脱ぎ捨てたのだろう。
 裸足でこの石畳を走るのは、なかなか堪えるだろう。もしも自分が凜だったら、どうするか。少し考え、答えが導き出されるとジェラートはソルベと合流する事を決めた。
 鬼ごっこの次は、かくれんぼ。しかもバレバレな所に隠れているのを見つけると、二人は口角を上げた。しばらく気配を消して、凜の様子を眺めていた。
 可哀想に、きっと走り疲れてしまったのだろう。あんなに身体を震わせてしまっている。足の裏も怪我をしたのか血が滲んでいるのが見えた。早く連れて行って、傷の手当をしてあげないと……。
「……見つけたよ」
 そっと声を掛けると、凜の目は見開いていた。また驚かせてしまったようで、口をパクパクと動かした。眠らせるために首筋にスタンガンを当てて、倒れる身体を二人で抱きとめた。
「帰ろっかオレ達の家に」
「……ずっと幸せに暮らそうな」
 三人の姿は、闇に溶けるように静かに消えたのだった。



[ prev / next ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -