Shadow Phantom | ナノ
 5:書類まみれの執務室(日当たり最悪、換気性も最悪の5畳ぐらいの部屋)

 案内されたこの部屋は、大量の書類とPCが乗ったデスクに錆びれたオフィスチェアー。あちらこちら破れかかっている一人用ソファー、そして壁側の本棚にはみっちりと引き詰められている分厚いファイル達。ほのかに香るタバコの匂いと埃臭さが混じった匂いが鼻をくすぐった。ここはどうやらリーダーの執務室のようだ。
 リーダーがオフィスチェアーに座ると、椅子はその大きな身体を支えるのに大きくギシリと悲鳴を上げた。そして僕に破れかかっているソファーを勧められたので、腰をかけるとクッションはすでにクタクタになっていた。
「さて、いくつか質問をしていくから答えてもらう。さっきも言ったように、お前に関しては何も聞いていない。オレとしては、この組織に日本人が所属しているさえ知らなかったからな。」
「……わかりました」
 承諾し頷いたのはいいが、一体何を聞かれるのだろうと、気が付かれないように心内に身構えた。

 どっかから拾ってきたこの色合わせたソファーは、どのくらい前の事だっただろうか?と、霧坂を座らせながら考える。当時はここまで傷んではいなかったが、どいつもこいつも乱雑にドカリと座るものだから、あっという間にボロボロになってしまった。そろそろ変え時だが、なにせ金が無い。……そんなしょうもない事を頭の片隅に置いといて、こっちの出処を伺っている霧坂に質問を始める。
「……組織に入ってからどのくらいになる? 前に所属していたチームはあったのか?」
「今年で8年目になりますね。元のチームは拷問チームです」
「拷問チーム? ……そんなチームは聞いたことがないが」
 この組織には数多くのチームがある。確かに全てのチームを把握しているわけではないが、『拷問』だなんて物騒な名前がつけられているチームがあれば、絶対に記憶にしているはずだ。他のチームリーダーとの会合の時でさえ、噂すら聞いたことがない
「あぁ……組織でも、知っているのはボスを始め、幹部や親衛隊とかの極僅かの人たちしか知られていなかったようですね。普段は堅気の仕事をしてギャングである事も隠して生活していましたから、知らないのも無理はないかと。それに……その拷問チームもつい最近解体しちゃったので、僕はここに移動って事になったという感じです」
 “本当は入団した当初このチームに入る予定だったんですよ”と、霧坂はニコニコしながら言う。
 この世界で8年間生き抜いたという事は、腕の自身はそれなりにあるのだろう。だが、極僅かの者しか知らぬチームの出身という事は、重要な情報を取り扱っていた可能性がじゅうぶんある。そんなに所に入っていた者を、この底辺なチームにというのは、ボス側に取って不都合な部分が多いのでは?もしかしてスパイか?わざと情報を持った人間を入れて、こちらのミジンコのような小ささでも、忠誠心を持ち続けているかと伺っているのではないのだろうか。
「他に質問はありますか?」
 色々思考を巡らせて、つい黙ってしまった。この新入を念のため用心しておく事に決め、次の質問に取り掛かる。
「……お前はなんで組織に入ろうとした? まだ会ったばかりであるお前の人間性は、まだ一ミリ程度しか知らないが……」
「『普通』な堅気の社会でもじゅうぶん生きていけるのでは? ……それか、弱みでも握られたのか? という疑問でしょうか」
 オレの言葉を取るかのように、霧坂は言葉を被せた。表情は相変わらず微笑みを浮かべているが、どこかイタズラっ子のような笑みなのが少々腹立たしく思える。だが、すぐに元の人の良さそうな笑みに戻した。
「……最終的の答えはスタンド使いだったから。まだ僕がこの国に来てそんなに経っていない頃、『食事』をしている所を幹部の人に見られてしまって、組織にスカウトされたんです。あの頃の組織はスタンド使いを欲しがっていたから、僕という存在はうってつけだったんですかね」
 ……『食事』とは何かの隠語だろうか?スタンド使いなのはわかったが、なんだか逆に謎が深くなったような気がする。
「あぁ、そうそう。僕のスタンドがリーダーに挨拶をしたいらしいのですが、よろしいでしょうか?」
「……敵意を見せれば、それなりの行動に出させてもらう」
「あははは、そんな事をするわけありませんよ」
 楽しそうに声をあげて笑う霧坂に、オレは思わず眉間に皺を寄せた。最初は果敢とした姿に好感を持ったが、わりと真面目に牽制しているのに、どこかあっけらかんとしたその態度があまり気に食わない……まぁ、攻撃するような素振りを見せれば、痛い目を合わせればいい。このチームのリーダーが誰だが知らせるためにも、スタンドをいつ発動させてもいい準備をするのだった。


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