Shadow Phantom | ナノ
 3:新入りもまた律儀な日本人

 『暗殺チームに新入りを送る。13時半、ここの場所に向かえ。会えばすぐにわかる』
 今日の早朝、短くそっけないことを書かれたメールが組織から送られた。この文章と待ち合わせ場所ぐらいしか書かれていなかったメールに、オレは早朝早々に溜息を付いた。
 もしかしたらという淡い期待を持って、マウスをいくらスクロールさせても、無意味な作業だと数秒もしないうちに思い知らされる。
 その新入りとやらの情報は何一つなかった。またこのチームに組織から厄介者扱いを受けた者が来るのかと思うと、待ち合わせ場所へ向かう足取りは重かった。

 ――閉店されたバルの中で椅子に座っていたその人物は、オレよりも一回り……いや二回りぐらい小さな子どもだった。
 古ぼけたドアベルが鳴ると、こっちに顔を向けたそいつとオレは目が合った。この瞳孔に驚いたのか、そいつはほんの一瞬だけ肩を小さく跳ね上げていた。
 わざと足取りを緩め、頭からつま先まで視線を送る。耳下まで伸ばされた艶のある黒髪、ところどころ露出された肌は黄色おうしょくで、東洋人なのだろうと所見する。輝きのない黒い瞳が、どこか怯えた色を込めながらオレの姿を目で追っていた。
 改めて正面からじっくり顔を見ると、やはり幼い顔をしていて、視力が悪いのか細い銀縁の眼鏡をかけている。会えばすぐわかると書いてあったが、本当に待ち合わせ相手はコイツなのだろうか?『Chiuso/閉店』と書かれた看板を理解できていない観光客が、うっかりと店内に入っただけで、実はまだ本当の待ち合わせは来ていないのだろうか。そんな不安を胸に溜めていると、ガタッと椅子を動かす音が、静かな店内に響いた。
 そいつが立ち上がると、胸元で結ばれている柔らかそうな白いリボンがフワリと揺れた。
 人の良さそうな笑顔を浮かべ、簡単に自己紹介をされて頭を下げられた。さっきまでの怯えた感情はどこかにしまい込んだらしい。背筋を綺麗に伸ばした姿もだが、高すぎず低くもないその声色は、震えてもいなかった。
 自分の不安が杞憂だった事に安堵し、果敢とした振る舞いに好感を持った。だがしかし、見れば視るほどこいつを暗殺チームどころか、ギャング組織なんぞにいる理由がわからなかった。礼儀正しいと言われる日本人(と言っても、日本人に対する知識はほぼないので、あくまで偏見である)らしさはあるし、話し方も物腰柔らかくチンピラ臭がない。人を殺すどころか、道端に落ちている金を律儀に交番に届けそうなタイプだろう。これまで入ってきたメンバーとは、雰囲気も何もかも全く毛色が違う。
 ……表情には出さないが、こんな得体の知れないガキを送ってくる組織は、何を考えているのかと思うと頭痛がやってくる。
“うちは保育所じゃあねぇんだよッ!”と、一時期ギャンギャンと吠えていた部下を思い出すと、更に憂鬱な気分にさせられる。
 自分も簡潔な自己紹介をし、アジトに戻ったら何と言って宥めようかと考えつつ、車を停めている場所に向かうために、新人に声をかけて足早に外を出たのだった。


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