Shadow Phantom | ナノ
 2:律儀な男は無表情なグリズリー

 入り口から覗かせた黒い巨体を見て、驚きのあまり全身の筋肉が硬直したのを感じた。悲鳴なんて可愛いものは出さないが、驚いた時のヒュッと息を飲む音を、咄嗟に殺した自分を褒めてほしいぐらいだ。
 『時間通りにやってきたイタリア人に初めて出会えたッ!』……なんていう小さな感動が生まれないぐらいに。
 何も言わずに僕を見定めるかのような視線を送りながら、その人は静かに僕の目の前まで来ると足を止めた。
――『真っ黒い大熊』
 この男の第一印象を例えるのなら、まさにその言葉どおり。店に入ってきた瞬間驚いたのは、人間ではなく、大きな黒い熊が入ってきたかのように見えたからだ。いくらスタンド使いでも、野生の熊に出くわしたら一瞬緊張ぐらいはすると思う。(そう。山の中ならともかく、こんな街中なら尚更)
 ……きっと190近くはあるのだろうな。その身長の高さは、座っている自分がぐっと見上げるのに首が疲れてしまうぐらい。
 鍛えられたガッチリとした肉体は、流石と言うべきか。そのへんのチンピラや、下っ端のギャング達なぞ比にはならないだろう。例えスタンドが使えなくても、ゴツゴツした岩みたいな拳やプロレスラーのような太い腕で、いとも簡単に人を殴り殺せそうだ。 
 そしてこの男の眼、黒目の大きさが異常なのか白目がない。眼が隙間なく黒い。
これらの風貌と滲み出る血なまぐさいオーラに、僕の内心は無意識に後退りしている。今まで出会ってきた人間の中でも、一番と言っても良いほどの危険な匂いがする。
 しかし、これからこの男の元で動くのなら、ここでビクビクした態度は嫌でも出せなかった。怖じ気付いた心に鞭を振るい、椅子から立ち上がり背筋を伸ばして男と向き合う。
「Buon giorno signore.この国に来てから時間ぴったりに来る人は初めてなので、少し驚きました。あなたが…………あなたが、僕の待ち合わせ相手だと認識しても?」
「あぁ」
 短く発声されたその声は、耳をゾクッとさせる重低音だった。よくよく見ると整っている顔立ちは、ピクリとも表情筋を動かしていない。いざこうやって話し合っているのに、ますます言葉が通じる熊のようだと錯覚してしまいそうだ。
「はじめまして、今日からお世話になる凜・霧坂です。これからよろしくお願いします。よく中国人と間違えられますが、日本人です。……えっと、僕についての情報とか聞いてます?」
「暗殺チームリーダーのリゾット・ネエロだ。お前についての情報は何一つ教えられていない。話はアジトに行ってからゆっくりと聞く。オレの後をついてこい」
 僕の新しいリーダーは淡々とそう告げると、さっさと踵を返してバルの外へ出てしまった。あっという間に置いてきぼりにされてしまった僕も、慌ててその後を追いかけるのであった。


prev / next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -