Shadow Phantom | ナノ
 29:間接的の裏切り者

 暗闇に包まれた工場内を、僕は狼狽えた男達にぶつからないようにすり抜けながら走った。そこそこ大きなこの工場内は、何に使用する為かわからない機械や背の高い棚が置かれていて複雑な迷路のようだと思った。
 明るければ迷ってしまいそうな道順だが、僕はノクターンのおかげで迷わずに二人が拘束される場所へと向かうことができた。しかし、辿り着いた時の状況を見て非常によろしくないと僕は判断した。
 ジェラートは、太いしめ縄で体を拘束され口には猿轡を噛まされていた。ジェラートはなんとかなるとして、問題はソルベだ。
 ソルベが寝そべられている台からは、金属製でかたちは大小バラバラのリングが備え付けられている。そして全身のあらゆる関節部分が曲がらないように、ソルベは隙間なく拘束されているようだ。きっとリングの部分はノクターンで壊せなくもないだろうが、一歩間違えればソルベの体を傷つけてしまうだろう。そう考えると、まずは台ごとソルベを救出して台を壊すべきだ。
 そしてその二人の傍らには二人の男が立っていた。一人は緑色の髪をして、もう一人はビデオカメラを手にした茶色のラバースーツを着た男。このビデオカメラを持っている男は確実にスタンド使いだと思う。
 何故ならこの男は、床から上半身だけしか体が出ていないのに関わらず平然としているのだ。例えるなら、地面から草が生えているような状態だ。工場内が真っ暗になった事に状況が読めていなさそうな緑髪の男もスタンド使いという可能性はきっと高い。
 そう考えると人質がいるこの状況で、どのような能力を持っているか不明であるこの二人を殺しにいくのは、リスクが高すぎる。
「いつになったら明かりは点くのだ……こんな楽しい時に停電なんて最もムカつくッ! 今切り刻んでも、こんなに暗かったら苦しんだ表情が撮れないじゃないか……。見張りの奴らは何してるんだ」
 緑髪の男は苦虫を噛み締めたような表情をし、忌々しそうに吐き捨てた。ラバースーツの男は緑髪の様子に、どうすればいいのかとウロウロとして困惑している。
 チャンスは気が付かれていない今だと思い、少し離れた場所にあった棚を2つほど思いっきり倒した。轟音を響かせ、積もり積もった埃が辺り一面に巻き散らかして汚い煙幕が広がった。
「なっ、一体何事だッッ!」
 正体のわからない男二人組の意識を背け、ノクターンでなるべく優しくソルベとジェラートを壁際まで移動させた。拘束されたこの二人をつれてまた工場の入口まで戻るのは、とてもできたもんじゃない。この工場は、外から見たら窓も無く出入り口は一つだけ、出入り口を塞がれたら袋小路になるだろう。
 だが、脱出する場所は別に一つだけでないのだ。出れる場所がなければ作ればいい。幸運な事に破壊をするのが得意な僕のスタンドならば、こんな古びた工場の壁をぶち抜くことなんて容易い。
 工場が崩壊しても構わない勢いよいで、ノクターンは壁をぶち抜いた。工場がその衝動で揺れると、あっちこっちの棚や機械が倒れた。大量の埃に咳き込みながらも、ぽっかりと見えた外へと僕は二人を引きずって脱出を成功させたのだった。

 僕たちは近辺にある建物の屋上へ逃げ込み、バイクを回収した。一気に使ったスタンド能力に少し疲れながらも、ソルベを拘束していた台を壊した。ジェラートのしめ縄はなかなか固くて僕のナイフでは切りにくかったが、ソルベが上手く扱って解放させる事ができた。
「…………」
「…………」
「とりあえず二人共、服を脱いで…………そんな顔をしないでよ。服に変な機械付けられてるかもしれないじゃん」
 工場の様子を伺いつつ、拘束を解いてからずっと沈黙していた二人に僕は話しかけた。別に裸が見たいとかそんな気持ち悪い理由ではない。よく映画だと、人質には万が一の事を考えて服や靴に発信機をつけるとかそういうのを見たことがあるのだ。もしあの人達が、この二人にGPSやら盗聴器なんて仕掛けられていたら、せっかく助けたことが水の泡になる。
 彼らもそこまで頭が悪いわけでない。すぐに僕が言いたいことを察してくれて、すぐに服を脱ぎ始めたので僕は慌てて視線を外した。しばらくゴソゴソと探る音と固い物を踏みつけて壊すような音が聞こえたので、僕は頃合いを見て視線を二人に戻した。少し不機嫌そうだがどこかバツ悪そうな表情をしていた。
「……なんであんたがここにいるんだよ?」
「…………連れ去られる所を見てしまったからね」
 最初に口を開いたのはジェラートだった。鋭い視線が僕を捉えているのは、僕がさっきの者達と繋がっていると思われているのかもしれない。
「別に見て見ぬふりして、立ち去る事もできたんだ。だって、僕は君たちの事何も知らないから」
 二人は黙って僕の話を聞いていた。今言った言葉は嘘ではないのだ。
「他のメンバーとは違ってほとんど顔を合わせた事もないし、勿論どんなスタンド能力なのかも知らない。謎だらけの君達を助けて何になるだろうと思ったけど、それでも僕は同じチームの仲間でもある君たちを助けたかったんだと思う」
 その言葉に続けて、僕のスタンドには自我があるが感情は一緒である事と真っ先に追跡したのはスタンドであった事も明かした。二人はそれに少し驚いた顔をしたが、また何も言わず黙り込んでしまった。
「ねぇ、二人は何をやってしまったの? ……1つだけ、1つだけ僕は最悪の予想をしている。できれば、そうであって欲しくないと願っている」
 押し黙り俯いてた二人は、勢いよく顔を上げた。その表情は焦りと狼狽えがあるように見えた。
「あの人達はパッショーネの構成員である証明バッチを持っていた。僕が持っているのと全く同じ物だから、間違いない。同じ組織の人間を痛めつけたり、拷問にかけるって事は、仲間を殺してしまったり麻薬に手を付けたりした罰でもある。だけど、そういう案件は僕達の仕事であるはずだ」
 僕はずっと思っていた考えを一気に吐き出し、少し気持ちを落ち着けるために大きく息を吸った。
「君達は……組織のタブーに触れちゃったの? ……アジトにほとんど居なかったのは、ボスの正体を探っていたから?」
「………………」
 二人は何も言わなかった。何とか言ったらどうなのと、畳み掛けるように問えばソルベがようやく口を開き言葉を発した。
「そうだ。オレ達はお前の言う通り、ボスの正体を慎重に何年も掛けて探していた。……だが、バレてしまった。何人いたかわからないが、組織のスタンド使いに囲まれて拉致られたんだ。そして処刑される寸前だった」
 悪い予感ほどよく当たるというやつだ。それも一番最悪な予想。推測をしていたとはいえ、実際に現実を突き詰められると全身から嫌な汗が出るものだと1つ学ぶ。
 この8年間、それなりに真面目にやってきた方だと思う。組織やボスに忠誠心は無いし、たまにやりすぎてしまった事もあるが、しっかりと給料をもらえば良いと失敗せず確実に任務をこなしていた。だがそんな平穏でいられる生活は、本日で終了らしい。
 僕は組織を裏切ったこの二人を助けてしまった。自分は別にボスの正体を探ったりしていないし、二人を助けただけという間接的であるが、同じ組織の人間を殺害した自分も裏切り者の仲間入りだ。
 まだソルベとジェラートを助けたのが僕であることはわからないだろうが、組織の情報チーム辺りが全力で調査にかかれば、正体を突き詰められることは時間の問題かもしれない。
「……とりあえず、アジトに戻るしかないね」
 こんな事になってしまった以上、リーダーに報告はしないといけない。その先のことは僕にはわからない。冷静になるために話し合いになるかもしれないし、もしかしたら禁忌を犯した僕たちに制裁という処刑が待っているのかも知れない。もしも後者だったら僕は…………組織の全ての人間を敵に回しても……。
 明らかに重量オーバーになるが、それしか足がないバイクに鍵を回した時だった。
「なんだ……?」
 その違和感に最初気がついたのはジェラートだった。ズッ……ズッ……と、まるでゆっくり下に降りるエレベーターに乗っているかのような感覚が体に伝わる。自分たちがいる建物が下に下にと沈み込んでいるというか。
「おいおい。俺たちがいた工場が地面に沈み込んでるぞっ!」
 色々考えるのを後回して、エンジンがかかったバイクのダンテムシートに無理やり二人を乗せて、僕もシートに跨るのであった。

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