Shadow Phantom | ナノ
 28:それは3月の日没後

 その日もいつもと変わらず日が暮れるまでバイトをして、本屋にでも行こうと駅前まで足を運んだ帰りだった。なかなか面白そうな本を見つけて早く読みたいなと、考えながらバイクを停めていた場所に戻る。
 バイクに鍵を差して後はヘルメットを被るだけという時だった。すぐ近くの路地奥から何か揉めるような声が耳に入った。普段なら面倒事はごめんだと果敢せずにさっさと立ち去るが、なんで今日はそんな場所に向かったのだろうと自分でもわからなかった。

 僕はその声の元へと、なるべく足音を立てないように忍び足で近寄った。自分の記憶が正しければ、この先にはちょっとした広場と隣の州に繋がる国道があったはずだ。その広場に近づくたびに声は大きくなり、そこにいる人数が多数である事が判明した。人が隠れられそうな茂みを見つけ、僕はそこに隠れて様子を伺った。
 道路側には三台の高級そうな車が止まっている。そして広場の中心ではざっと数えると10人以上の男たちが、ぐるっと円陣を囲むように立って真ん中にいる何者かに、罵声やら暴力を奮っているかのように見えた。よくよく観察すると、数人の手には拳銃が握られている。
 拳銃……そう考えると、僕と同じギャング関係の者なのだろう。でも、ここの地域はパッショーネが管理している。
 そうなると同じ組織の人間なら、別にこのまま去っても大丈夫だろうと思った時だった。円陣からチラッと見えた中心人物達に、僕の足は止めざるを得なかった。
「ソルベ……ジェラート」
 暗殺チームである二人の仲間の名前を、絞り出すような声量で僕は呟いた。片手で数えるぐらいしか顔を合わせていない二人だが、あの髪色と服装は間違いなく彼らだ。そうなると、考え方は変わってくる。今彼らを襲撃しているのは同じ組織の者達ではなくて、違う所の組織かもしれないのだ。
 僕がそんな事を考えているうちに、気絶してしまった様子の二人を、襲撃している者達が数人がかりで引きずって車の中に押し込めると、ドアが閉じるのと同時に発車してしまった。
 追いかけるにも足のない状態では追いつけない。そう思っていたが、僕よりも真っ先に反応して車の影にくっついたのはノクターンだった。
 自我があるスタンドとはいえ、その心理状態や感情は僕自身と共通している。突然の事に戸惑いという感情はあれど、『あの二人を救出しなくては』という僕の根底に隠れていた意志をあの子は読み取ったのだろう。
 そういう事なら、僕の行動は決まったようなものだ。車の追跡をノクターンに任せ、僕は急いでバイクの元へと戻った。

 ガソリンを今日給油しておいてよかったと思ったことは初めてだろう。朝のうちにガソリンスタンドに行くかどうか迷ったが、もしも行っていなかったらこのバイクで追跡をするのは難しかった。
 ノクターンからの道標を頼りに、北の方角へと国道を走っていた。規則速度ギリギリのスピードで追いつけるだろうかと思ったが、運良く二人を拉致した車の背後まで追いつけることができた。ただこのままだと尾行していることがバレてしまうので、一定の距離を保つ事にした。
 車を尾行してどのくらいの時間が経ったのかわからないが、今いる地区は恐らくカゾーリア周辺だろう。一体どこまで行くのかと思ったが、工場地帯に入ると車はようやく停まった。僕も車から少し離れた場所に止めると、ノクターンを使って少し高い場所へと登り様子を伺った。
 男たちは数人がかりでソルベとジェラートを引きずりながら、一件の寂れた工場の中へと入っていった。入り口には拳銃を手にした者が数人見張りとして立っていた。あの男たちが何の為に二人を拉致していった理由はわからないが、二人の安否を考えるとモタモタする時間はあまりないだろう。
 僕は最初、逃げる時に障害にならないように三台の車の中に残っている者達がいないか確認をした。
それぞれ一台ずつ運転席に座っていたので、さくっと殺しておいた。お腹も空いていたので、証拠隠滅ついでに食べて消しておいた。次に、入り口に立っていた見張りも気が付かれないうちに殺した。
 ここまではよかった……ここまでは。僕は、見張りの一人が着ていたスーツを物色した。もし同じ組織の者なら、証明のバッチを持っているはずだからと。
「……マジか」
 見つけてしまったのだ。自分と同じ組織である証明バッチを。そして、それは今調べた者だけでなく、すでに絶滅している他の者達にも同じ物を持っていたのだ。
【パッショーネの者達が、同じ組織である者達を痛めつけ拉致した。】その事実を確認した時、僕の頭に一つの最悪な予測が思い浮かぶのであった。


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