Shadow Phantom | ナノ
 25:女性店員は現在、恋人募集中!

「潜入、ですか……?」
「そうだ。組織の麻薬を横から掻っ攫い、子供相手に使って色々弄ぶ輩がいるそうだ。今度開かれる誕生パーティーに潜入して、『開催者から麻薬強奪に関わりのある人物を聞き出し、関係者全員を殺せ』という司令が出た」

 相変わらず煙臭い執務室へ入れば、リーダーの他にもイルーゾォがソファーに座っていた。中に入ってきた僕を見て、イルーゾォはこの前の件もあってか少し不愉快そうな顔をしていたが気が付かないフリをした。
 イルーゾォの横に並びリーダーからの話を聞けば、今回の任務は潜入してターゲットに近づき別の場所での拷問からの殺害だそうだ。
「何故わざわざ誕生パーティーでなんです? 普通に呑ん気している所を拉致するのではいけないんですか?」
「……そのパーティには、ターゲットに関わりのありそうな者達も招待されているらしい。だが、関わりがあるという確実な証拠がない」
「つまりパーティ会場で情報を聞き出せば、ついでにすぐ始末できるという事か」
 随分まどろっこしいやり方だと最初は思ったが、ちゃんとした理由があったらしい。渡された資料に添付された写真に目が止まり、どこか見覚えがあると記憶を探った。
「この人って……確か政治家じゃないですか? あぁ、やっぱり政治家ですね。ちゃんと書いてあった」
「やれやれ、麻薬に政治家が絡んでいるとか。本当にこの国は碌な政治家しかいねぇんだな」
 ニュースでチラッと映ったのを見た事があるぐらいだが、少し特徴的な髪型が印象的だったのを覚えていた。そして、資料にはしっかりと職業の欄に『政治家』と書かれている。
「話を進めよう。今回の任務は一応他にプロシュートとギアッチョも同行する予定だが、メインは凜とイルーゾォで動いてもらう。髪の毛と目の色が同じだから、少し歳の離れた兄と妹で一緒に会場に入れるだろう」
「……兄と妹?」
 一体どういう事だろう。チラッと隣りにいるイルーゾォにも目を向けると、彼もどこか不思議そうにしている。
「どうやら性癖が、少女・少年趣向らしいからな。……そこで、凜には少女のフリをして潜入してもらう」
 リーダーの発言に、頭を強く打たれたような衝撃が走った。いくら子供のように見られるからって、それはあまりにショックだった。イルーゾォもそれを聞いて、どこか楽しそうに笑っている。
「そうだな、ロングヘアのウィッグを被って化粧も子供っぽい感じにして、ドレスもそういう雰囲気のを着れば完璧じゃん。それで行こうぜ」
 こっちの気もしれないで、イルーゾォは着々とプランを立ててくる。簡単に言ってはくれているが、正直不安しかない。何故なら、僕はこういった変装しての潜入任務はしたことがないのだ。
「少女のフリをして凜は、うまいことやって開催者に近づけ。トイレでもどこでもいい、人気のない場所に連れ出して情報を聞き出せ。場合によっては、イルーゾォの鏡の中に引き釣り出せばいい」
「……」
 有無を言わせない作戦に僕は、言葉を無くして頷くことしかできなかった。

『ドレスはプロシュートに見繕ってもらえ』
 リーダーからのその指示の通りに、僕はプロシュートの元へ行って事情を説明した。彼も事前に言われていたらしく、あっという間に僕は車に押し込まれて連れ去られたのだった。
 そして、ドレスを扱う店に到着してから早一時間半。僕は、次々に持ってこられるドレスを着たり脱いだりと、忙しない着せ替え人形状態になっていた。
「これは……ちょっと違う。色が思っていたよりも似合わない。……次っ!」
 途中で数えることをやめたぐらいのドレスを着ているが、プロシュートから見るとどれも納得がいかないらしい。最初はテンション高く付き合っていてくれた女性店員は、次と聞いてまたかと肩を落とした。
 選んでいる途中『任務の時はウィッグを被る予定だよ』と伝えて、お店に置いてあった黒いロングのウィッグを借りて被っているが、なかなかピッタリな物が決まらない。
「いやー、オレとした事がうっかりしていたぜ。必死に成人向きのドレス探してて、子供向けの所を探し忘れていたもんだ。たっくよ、リゾットも可笑しな事を言うもんだから変な勘違いを……っておいおい、そんな据わった目するな」
 十分後ようやくプロシュートは戻ってきた。後ろに控えていた女性店員が持っていた数着のドレスを見て僕は少しウンザリしていた。子供向けでもなんでもいいから、早く解放してほしい気持ちで一杯だった。プロシュートの発言に返事をせずに、女性店員が持ってたドレスを適当に手に取り試着室に引っ込んだのだった。
「……これにするよ」
 プロシュートも候補にしていた長袖で濃いネイビーのロングドレスを僕は選択した。黒髪に合わせたら暗くなりがちではないかと思うが、スカートのチュールにスパンコールが散りばめられていてまるで星空みたいで綺麗だったし、腰の部分には大ぶりの白く柔らかいリボンが飾られてなかなか華やかだったのだ。
 これなら肌を隠せるし、顔の色を化粧で誤魔化せば東洋人だとはバレにくいだろう。子供用とはいえ、サイズも一番大きな物だったし問題なく着用できた。
 僕たちはこのドレスと、被っていたウィッグに銀のラインストーンが輝く花のカチューシャとドレスに合う靴を購入した。会計をしている女性店員の顔には、笑顔が戻っていた。
 凄まじく疲れた買い物であったが、最終的に気に入った物を購入できたので結果オーライとしておこう。


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