Shadow Phantom | ナノ
 21:少しずつ軋み始める歯車

「おつかれ、リゾット」
 長時間の書類との戦いを終えて一息をつこうと思いリビングに入ると、ソファーには久々に会うソルベとジェラートが座っていた。疲れたオレの顔を見て、声を掛けてくれたジェラートに短く返事をした。
「毎度の事だけど、あんまり根を詰めると身体に良くないぜ?」
「そう言ってもな……」
 メンバーそれぞれの報告書や、請求書や領収書、上への報告のまとめ等やらないといけない事が盛り沢山だ。時間がいくらあっても足りなくて、寝なくても支障のない身体が欲しいぐらい。
「あぁ、そういえばさ。先日はリゾットとメローネに……あの彼女と任務行ってきたんだろ?」
「メローネがやたら興奮していたな。まぁ、いつもの事だが」
 この二人にはこの前の任務については話していなかったが、他のメンバーから話は聞いたのだろう。どうだった?とどこか楽しげそうにジェラートは聞いてくる。
「そうだな……魚のスタンド使いがいたぞ。資料には載っていなかったが、魚が魚の形のスタンドを使っていた」
 あれは本当に予想外だった。まさか人間以外でスタンド使いが居たとは思いもよらなかった。帰りの飛行機の中では、凜があの魚はきっと金庫の番犬ならぬ番魚だったのでは?と言っていた。実際、二回目の時に攻撃を食らって弱った凜を狙わずに、金庫に触ったオレ達に狙いを定めていた。大事そうに広い水槽に一匹だけ飼われていたのもそのせいでは?という結果が出たのだった。
 ジェラートはオレの答えに少しだけポカンと口を開けると、腹を抱えて大笑いをした。隣に居るソルベも、普段は表情をあまり出さないが相当面白かったのかクツクツと喉を低く鳴らしていた。
「へぇ〜魚のスタンド使いかぁ。世の中、とんだ化物だらけで何が起こるかわかったもんじゃねぇーな。リーダーよ?」
「そうだな……」
「スタンド使いには動物もいるみたいだぞ。……だけど、よりによって魚とかっ」
 ソルベは豆知識を披露したが、思い出し笑いなのか変なツボに入ったせいかまた笑いだした。
 そんなに面白かったのだろうか、首を傾げるとジェラートに強く肩を叩かれる。
「それもいいけどよ、霧坂はどうだったんだい? メローネが言うには、『凜は血の伯爵夫人みたいで凄くそそられるっ!』って言ってたけどよ。その言葉通りなら本当に化物じゃねぇか」
「……あんまり『化物』って言ってやるな」
 ジェラートに軽く窘めると、おちゃらけたようにヤレヤレと言いたそうなポーズを取った。
「彼女をスカウトした幹部は『あの子の圧倒的な力と人を殺した時の冷酷さに魅了されたから』っていう理由みたいだぜ」
「本人から聞いた」
 オレはソルベの言葉にビクリと思わず身体が震えた。
「今、なんて……?」
「霧坂をスカウトした幹部本人様だ。オレ達からじゃなくて、向こうから話しかけてきたんだ。自分が幹部で、君たちのチームに居る霧坂をスカウトした張本人だって」
「それでスカウトした理由を聞いた。交わした言葉は少なかったが、『あの子の取扱には気をつけるんだね』と言葉を残して居なくなった」
 二人の言葉にオレは言葉を失った。その幹部はなんの為に、この二人に近づいたのだろう。凜の危なさは、あの任務の時にほんの少しだが見ることができた。チームに入ってきた時に、組織に入った理由が『幹部に食事を見られたから』と言っていたが、その『食事』というのがアレだったのだろう。
 また考えなくてはいけない事が増えてしまった。思わず眉間に皺を寄せると、ジェラートからまた難しい顔しちゃってと言われてしまうのであった。
「……あっ、オレ達そろそろ出かけないと……」
「そうだな」
 時計を見たジェラート達は、何かを思い出したかのように立ち上がった。そういえば、この二人はここ最近アジトにいる時間がめっきり減っている気がする。ホルマジオなんかは、最近静かだからよく眠れるぜと呑気な事を言っていたが。
「お前ら、ここ最近何を調べているんだ? 碌な所に首を突っ込むなよ」
「ははっ、リゾットってまるでマードレだよね。ちょっとした野暮用だよ、野暮用。大丈夫だから気にしなくていい」
「リゾットはリーダーだ。だからドッシリと座っていればいい」
 それじゃあオレ達行くからなと、こっちの心配を他所に仲良くピッタリとくっつく二人の背中をオレは呆然と見送った。
 何でこんなにもチクリチクリとまるで針で肌を突かれるような感覚が走るのだろう。体内にいるメタリカ達がいつもよりもザワザワと騒いでいるのは何でだ?
 ――その理由は今のオレでは予想する事ができなかった。

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