Shadow Phantom | ナノ
 17:必須品はホッカイロ

 執務室は相変わらず、空気が篭り陰湿な雰囲気が漂っている。椅子に座るリーダーの前に、僕とメローネが並ぶ。任務の説明をするからと呼び出されたのだ。
「今回はオレを含めた三人で任務を行う」
 抑揚のない淡々とした口調でリーダーは話すと、僕達それぞれに書類を渡した。ターゲットの所在地やら経歴やら個人情報満載だ。
「イタリア北西部にある『ジェノヴァ』へ向かう。まだ小さいがそこにあるマフィア組織を潰すのが目的だ」
「うえぇ、この時期のあの辺ってくっそ寒いじゃないか。なんでそんなとこをわざわざ潰しに行くんだよ?」
 話を聞いていたメローネは、街の名前を聞くとわかりやすく嫌な顔をして横槍を入れた。そんな彼にリーダーは、大人しく聞いてろと咎めた。
「……組織を潰す理由は2つ。1つは、パッショーネの麻薬に手を出した。そしてもう1つはパッショーネの工作員を殺害して、組織のバッチを奪った事だそうだ。オレ達は組織を潰し奪われたバッチを持って帰るのと、殺した人間を処理する事が今回の任務だ」
「流石にそっちまで行くと『清掃チーム』は動けないんだ?」
「『清掃チーム』は別件があって、行くことはできないそうだ。面倒だが、オレ達の仕事になるな」
 久々に死体を処理して良いんだと思うと、待ちきれないのか僕のお腹はキュウと音を鳴らした。隣にいたメローネにその音が聞こえたのか、お腹空いているの?とからかってくる。
「今回の任務は泊りがけで行くんですか? 移動手段は?」
 ここネアポリスからジェノヴァまでは、車でおおよそ8時間で列車だと6時間。そして飛行機だと2時間で行けたはずだった。流石に、車とかでは日帰りは厳しいが飛行機なら可能だと思う。
「……一応滞在の宿代は経費で出るが、そこまで予算がないな。車で休み休みながら向かおうかと…」
「えぇっー! 絶対嫌だよぉ〜ぜってぇ、ケツと身体が痛くなるパターンじゃん。凜だって嫌だよなっ?」
「そうだね……スタンドを使った後はやっぱり精神的に消耗しますし、その状態で車の長時間の運転は逆に危ないと思います」
 リーダーにそう意見をすると、しかし予算がとかブツブツ呟いていた。このチームはそんなに豊かではないらしい。
「どうせ潰すんですから、ある程度頂いてしまえばいいんですよ。無いよりはマシです……それとも上から金品をくすねるのは禁止にされています?」
「……あんた結構ゲスい発言するんだね」
 僕の提案を聞いたメローネに、心外な事を言われてしまう。何人いるのかはわからないが、一人ずつ有り金を集めたら交通費代ぐらいにはなるだろう。どうせこの世からいなくなるのだし、お金を持っていても仕方がない。
「特にそういう事は言われてはいないが……」
「大丈夫ならそれで行きましょう? くすね損ねた時は、言い出しっぺの僕が交通代を出しますから……ねっ?」
 ゴリ押しでリーダーに頼み込むと、渋々だが承諾してくれた。エコノミーだが、長時間の移動でお尻を痛ませる事を回避できた。

 イタリア北西部にある港湾都市『ジェノヴァ』。昔は海洋国家と栄え、現在でも商工業・金融業を中心に長い歴史を続けている。さらにジェノヴァ湾ではイタリア最大の貿易湾であり、地中海最大のコンテナ取扱高を誇っているという。かつて父が生きていた頃、仕事で何度か足を運んだ事があると聞いたことが頭の片隅で覚えている。
 ネアポリスから飛行機で約1時間半でここジェノヴァに辿り着いた。空港から一歩外を出ると、冷たい風が頬を撫でた。
「うわぁ、やっぱり寒いし……。早く暖かい場所に移動しようよ」
 メローネの意見に同意だった。寒さ対策として一番暖かいコートを着てきたが、ノーガードの顔にはビシビシと寒風が襲う。ネアポリスの気温はだいたい東京と変わらないが、こっちはそれよりも寒い。きっと北海道(冬に行ったことがないからわからない)よりかはマシだと思うが、子供の頃から寒いのは苦手だ。隣にいるリーダーに目をやると、さすがにいつもの仕事着ではなかったが、ニットのタートルネックの上にジャケットで軽装だ。
「任務は夜が更けてから行う。それまで、街はずれにあるホテルで宿を取り任務の段取りを話す」
 リーダーは鞄の中から、さっき売店で買っていた地図を取り出した。ピラピラと風で飛んでいきそうな地図を飛ばされないようにしっかり持ち、目的周辺の場所を指で指した。敵組織の潜伏先から少し離れた所に、泊まれそうなホテルが何件かあるらしい。
「了解、そこ周辺までどうやって行く?」
「バスだな……」
 目的地まで行くバスが来るまであと30分だと知ったメローネの嘆きがバスロータリーに響き、むやみに目立つなとリーダーから拳骨を貰ったのだった。

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