Shadow Phantom | ナノ
 16:その出会いは偶然だったのか運命だったのか

 ネアポリスの中央広場からすぐ傍にあるトラットリア『SPERANZA/希望』はお値段は安いのに、味はリストランテに負けないぐらい美味しい事で地元の人には有名だ。そこの店でバイトを始めて、出勤は不定期ながらも勤めてもう8年目になる。店内の客席はカウンターが8席、テーブルが10席あり店奥には個室が3室あるが、その2室はいつもとある人達用にと使われている。少なくてもここ5年はそうだ。
 時刻はプランゾ(昼食)間近なためか、お客が増えてきた。来店を知らせるベルが聞こえたので、空いた食器を片付けて客を迎える。
「いらっしゃいませ……これはこれは、ミスタ様。いつもありがとうございます」
「よぉ、他のやつらはもう来ているか? とりあえず、先にマリゲリータをよろしくなっ」
「かしこまりました。……本日はまだ他の方々はご来店なさってません」
 4番目じゃなくてよかったぜーと特別に空けてある個室に向かうミスタ君の後ろでは、小さい5体のスタンドがフワフワと飛んでいる。それぞれが腹減ったとか、早くメシ食いたいぜとか文句を言っている。彼の自我があり食べ物を食べられるスタンドに親近感を持ったが、自分の身元は隠しているのでいつも見えないフリをするのが大変だ。
 厨房にオーダーを通すと、またまた来客がやってくる。
「いらっしゃいませ。……いつもありがとうございます、皆様」
 まとまって来たのは、賢いけど結構短気のフーゴ君によく勉強を教わっているナランチャ君。背が高く、見るたびに卵の殻を被った黒いヒヨコを思い出してしまうアバッキオさんに、彼等をまとめるリーダーのブチャラティさん達だった。
「邪魔するよ。ミスタの奴は来てるかな?」
「はい、つい先程いらしゃったばっかりです」
「そうかい。グラッチェ凜」
 爽やかに彼はそう言うと、仲間たちと一緒に個室にへと入った。

 護衛チームを任されているブチャラティと出会ったのは、今から5年前。まだどこか幼い顔をした彼は、組織の人間に連れられてこの店に来店した。バレないか心配したが、向こうは僕が同じ組織の者だとは思われなかったようだった。むしろこんな東洋人がちゃんとした接客をできるのかどうか文句を言っていたが、そこは上司が対応してくれ最終的には満足してもらえたので大丈夫だったのだ。 初対面は言葉を混じる事はなかったけど、ブチャラティはその日以来ちょこちょこと店に来るようになった。僕と同じでこの店の味に魅了されたのだと話したことを覚えている。月日は流れ、ブチャラティはギャングだが、どこか正義感があり頼りがいがあって信頼ができるという事で、一般人の人達からも支持されていた。引きこもっている幹部に気に入れられて護衛チームを任され、人が増えたこともあり店長とオーナーが個室を提供した。他のスタッフはギャングの彼等を怖がっていたので、流れ的に彼等の対応は僕に任されるようになってから顔と名前を覚えられるようになっていた。
 
 護衛チームは僕も同じギャングだなんて一ミリも思っていないだろう。そしてこれからも、きっとこの事実を知る機会もないだろう。本日も、このトラットリアの給仕として彼等に接するのだった。 


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