Shadow Phantom | ナノ
 15:うわっ……付けた奴のネーミングセンスなさすぎ

「ちょっと待ってよ『東洋の化物』さん」
 バイトからの帰り、自分の部屋に戻ろうとした時に背後から声を掛けられた。ただ声を掛けられるだけならいいが、聞きたくもないあだ名付きだ。後ろを振り向くと、ツナギっぽい服を着た黒髪の男と金髪の男が立っていた。どちらも初めて見る顔だった。
「……そのあだ名は好きじゃないんですよ。ダサすぎて笑えない。えっと、初めましてですよね? ソルベさんとジェラートさんで合ってます?」
「あぁ、そうだよっ! オレがジェラートで、こいつがソルベ。よろしくなっ! ……えーと、あんたは凜って呼べばいいかな? さっきのあだ名は悪かったよ」
 ニコニコしていう金髪の男はジェラートっていうらしい。彼とは反対にちょっと怪訝そうな表情なのがソルベだとか。よろしくお願いしますとお辞儀をすると、手を大きく振ってそんな社交辞令は辞めてくれと言われてしまう。
「……何か僕に用があったのでは?」
「うん。悪いんだけど、君のこれまでの経歴を調べさせてもらったよ。生まれからこっちの国に来るまでの事も、こっちに来てからの生活とか組織に入ってからのもね。……調べて結論出せば、一応信用はするけど何か変な動きをすれば…………わかるよね?」
 この人、ニコニコしてるくせに目は全然笑ってない。棘を含ませる事言いたいなら、隣にいる人みたいにわかりやすい表情をすればいいのに。
「わざわざ、極東の国に行ってまで調べてきたの? そんな苦労しなくても僕に聞けばよかったのに。……それとも、帽子をかぶったいけ好かない情報屋さんにでも聞いたのか。まぁ、別にいいんですけどね」
 こちらも人の良さそうな笑顔で嫌味を含んで言うと、ジェラートの眉間が僅かに動いた。しばらくお互いに笑みを浮かべてるだけの沈黙した空気が漂ったが、二人は用があるからまたねと僕の元から去ったのだった。

 机の上には、ところどころに写真が添付された何十枚もの書類が置かれていた。全て霧坂凜について書かれているものだ。
「霧坂凜。年齢28歳、AB型。国籍日本の裕福層育ち。両親は他界していて一人っ子、親戚はいる。スタンドの発症年齢は不明。私立の高等部を卒業後、約一年半父親の会社で会社員として働いていた。20の時に両親が変死し、その数カ月後にイタリアに来た。ネアポリス駅の近くに小さな家を買い、中央広場付近にあるトラットリアで給仕と夜はバーでピアノ弾きのバイトをしている。幹部からのスカウトで組織入団。かつての学生時代の知人や教師などの周りからは、文武両道で性格も温厚だったので周りからは慕われていた。成績は常に上位、クラブ活動の剣道部ではキャプテン(主将)で隙のない人間だと誰もが口を揃えてた。まぁ……ここまで完璧に近いと、逆に物凄く胡散臭いよね」
 ソルベとジェラートは、霧坂について調べ上げた報告を持ってきた。ざっくりと説明をするジェラートの話を聞いて、謎が深まるばかりだ。裕福な環境で育ち、才能に恵まれ、周囲から慕われる人柄だからこそ何かを黒い物を抱え込んでいるのだろうか。
「……それと、霧坂がこのチームに入るずっと前からとある噂話があった」
「パッショーネは『東洋の化物』を飼っているっていう噂があったんだよね。どこからそれが流れたのかはわからない……まぁ色々調べてみたけど、霧坂凜は信用してもいいと思うよ。あと入団する時にポルポとちょっとした一悶着があって、強引的に組織のバッチを受け取ったらしいから、ポルポからは好かれてはいないだろうね」
「『信頼』されていないから、スパイ要員にはなれないだろう」
「やつは『信頼』って言葉が大好きだからね」
 ジェラートが皮肉そうに言うと、隣のソルベも少し口角を上げて笑った。
 オレを含めてこのチームは組織から『信頼』されていない者達の吹き溜まりだ。その事を思えば組織から疎まれ、妙な通名を付けられている霧坂に少し同情する。
「彼女のあの猫かぶりが無くなったらどうなるかは興味深いよね。物凄く性格悪いとか、殺人狂とか暴力的だったりメローネみたいにド変態だったりして」
「…………彼女?」
「えっ……霧坂凜の事だよ? 確かに口調は男口調だし、見た目は中性的だけど、れっきとした女。服装でわかりにくいけど、よく見れば胸だってちゃんと膨れている。……嘘でしょリゾットッ!? 鈍感な所があるとは知ってるけど、きっと見分けがつかないのはこのチームではあんたぐらいだよ」
 ソルベは何も言わなかったが、オレを呆れたような目で見ている。鈍感のニブチンリーダーとからかってくるジェラートに対してオレは何も言えず、予期せぬ情報に頭を抱えるのだった。

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