Shadow Phantom | ナノ
 10:本日のプランゾ(昼食)代 日本円にすると一万五千円

 次の日、ホルマジオが自宅に来たのは正午を過ぎた頃だった。僕はてっきり車で来るのかと思ったが、徒歩で来た彼に少々困惑した。アジトに運ぶ荷物はそんなに多くもないし、大きな家具はせいぜいベッドだけだが、これを車なしで運ぶのはちょっと大変ではないかと思う。
「えっと、これどうやって運ぶの?」
「あぁ、別に大した事じゃねぇよ。こんなの運ぶなんざ簡単、簡単」
 ホルマジオは僕の心配とは裏腹に、手をヒラヒラさせて飄々と答える。一体どうするのかと思うと、急にホルマジオは金色のロボットのような人型のスタンドを出した。右手の指先には刃がついており、ホルマジオのスタンドは素早くベッドの脚元を切りつけた。あっという間に他の荷物にも同じく切りつけると姿を消した。
「よっし。これで完璧だな。表にあったバイクは凜のだよな? 悪いけどよ、アジトまで乗せてってくれよ」
「それは構わないけど……」
「荷物の事なら心配いらねぇよ。……ほらっ」
 ホルマジオが指差す方を見ると、ベッドと荷物がさっきよりも小さくなっている。驚いているとそれらはどんどん小さくなり、最終的にはドールハウスにでも飾れそうなぐらいの大きさになっていた。重さもサイズと一緒に軽くなっていて、ホルマジオが徒歩で来た理由を理解した。
「これは、君のスタンド能力?」
「まぁーな。『リトル・フィート』っていう名前だ。よく、あいつ等にはくだらない能力だとか言われているぜ」
 ほんのちょっとしか見なかったが、物や人?を小さくすることができる能力らしい。それなら拳銃や暗器道具を小さくして持ち運べそうだと考えれば全然くだらないとは思えない。
「その能力の持久力は? 何時間ぐらい持つの?」
 そう問うと、さっきまで穏やかだった空気が少し張りつめる。彼はヘラヘラと笑っているが、眉間に少し皺が寄っていた。
「勘違いしないで欲しい。もう昼食時だから、アジトに戻る前にpranzo/昼食でもどうかなって思ったんだ。荷物を運んでくれるお礼にご馳走するよ」
 敵意を見せないようにやんわりと言うと、ホルマジオは溜息をついて頭をガリガリと掻いた。
「しょ〜がねぇ〜なぁ〜ッ。オレはかなり食うぜ?」
 カラッとした笑みを浮かべて、軽い脅しをかけてくる彼に僕は黙って頷いた。

「そういえばさ」
 宣言通りに遠慮なく注文した大量の料理を片っ端から食べている彼に声をかけると、口に物が入って喋れないのか視線がこちらに向けられた。
「……さっき君はくだらない能力だって言ってたけど、くだらない能力なんて存在しないと思うよ」
「どういう意味だ?」
「スタンドっていうのは、数学や何かに似ている。まずは基礎を覚えて応用で答えを出すって所かな。スタンドもまずは自分の能力という基礎を覚え、そしてそれを応用する。勉強とは違う部分は、答えは自分にしか作り出せない。……だから、僕はホルマジオの能力をくだらないとは思わない」
 なんて偉そうな事を言っちゃったねと、付け足すと彼はしばらく沈黙し僕を見ていた。出過ぎた事を言い過ぎて、怒らせてしまったかなと不安に思っていると、ホルマジオはコップに入っていた水を一気に飲み干した。
「……ありがとよ。そんな事言ってくれる奴、あんまりいなかったから驚いたぜ。あと、飯ごちそうさん」
 嬉しそうな顔をして渡された伝票を見て、昼食代にしてはやたら高い出費になったと思ったのだった。
 

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