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少し前に銀さんと喧嘩をした。内容なんて覚えてないからほんの些細なことがきっかけだったんだと思う。それから三週間と少し、僕はへそを曲げ続けた。
いつもこっちが折れていたんだ。たまには銀さんから謝って欲しかった。
でも、待てど暮らせどあの天パは謝るどころか話しかけてすらこない。僕から話し掛けはしないけど、銀さんからは別に良かったのに。そうすれば答えたのに。
それすら必要されてなかったんだと気づいて。僕は少しだけ泣いた。
神楽ちゃんは定春の散歩に、銀さんはどこかに。喧嘩していても鍵は、家は預からせてくれる。でももう、僕の居場所は少ないのだと、自分の首を絞めたのだと。
曇天の空の下で、洗濯物を取り入れながらふと思った。
こうして家事をしなければ。僕の存在価値ってどれくらいなんだろう。
僕は彼らが好きだけれど、あいつらは憎まれ口ばかりだ。確かに懐には居るだろう。
でも、僕の好きとあの二人の好きは似ているようで遠い。
神楽ちゃんへは、姉上と同じ好きだ。定春も。家族。だから叱ったり注意したりする。世話を焼く。大切だから。
銀さんも、限りなくそれに近いと思う。それに少しの尊敬。憧れ。……それだけのはずだ。そうじゃないといけないんだ。
そうあるべきなんだと考えている時点でもう違うのは分かっているんだ。でも、駄目だから。僕じゃ駄目なんだ。
神楽ちゃんのチャイナ服と、銀さんの着流しを畳みながら思う。ここに僕の服は無い。最近は泊まらず遅くなっても家に帰っているから。
いい機会だった。自分の位置を確認できたのだ。僕は確かにここの一員だけれど、彼らの限りなく近くに居るけれど。
銀さんはああ見えて優しい。告げれば悩むだろう。そして突き放せないのだ。
そうなったら僕も、銀さんも、神楽ちゃんも。定春だって苦しくなる。居心地のいい万事屋が、僕らが、そうじゃなくなってしまう。
ぽたりと着流しに涙が落ちる。頬がなまあたたかい。嗚咽は出なかった。
ぽたりぽたり。少しずつ染みが広がる。ああこれは洗いなおさないとな、せっかく乾かしたのに。でもいいか、今は文句言ってこないし。
ぎゅうと握り締めて。しわになっても構わないか、と顔をうずめる。洗剤の匂い。
僕の体より大きな着流しは、眩しいくらいに白かった。
それから数日して、神楽ちゃんが風邪を引いた。雨の中走り回って、熱が出たのだ。
僕はその日彼女の代わりに定春の散歩に出た。そうしたらなんと、銀さんが追いかけてきたんだ。ごめんって謝ってくれて。
ああ、これくらいなら望んでもいいのかなって。
久々に見た銀さんの笑顔は照れ笑いだった。……僕は半分泣いているようなもんだったけど、笑って見せた。
2012.3.31 続
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