難しいこと言わないで!
「君は馬鹿なのか」
まるでその言葉がスイッチのように、私の頭の中でカチンと音が鳴った。何で私は真顔でそんなことを改めて言われなくちゃいけないんですか。
「馬鹿って言う奴が馬鹿なんですー!」
「はぁ…」
「ちょ、溜息吐かないで!余計哀れになるでしょ!」
怪訝な顔をするリドルに、ただただ噛み付く私。何でこんな展開になったのか全然判らない。ただ図書室から帰ってきた途端詰め寄られて、何かと思えば君は馬鹿発言。何なの!幾ら優等生だって言って良いことと悪いことってもんがあるのよ!
「さっきまで何してたの」
「図書室に行ってたのよ。レポートをやりに!」
「誰と」
「アブと!」
そう言うと、再び吐き出された溜息。何よ、アブと行っちゃ悪いの?第一図書室でレポートやれって言ったのはリドルで、そこにたまたまアブが居ただけだもん!
「昨日、君はアブに告白されてなかったかい?」
「そうだけど…」
「じゃあ、アブの申し込みを受理したんだね?」
「そうじゃないよ。アブにはまだ返事は良いから、それまでは普通に接してって言われてるだけで…」
途端に吐き出された盛大な溜息は、今日3度目のものだ。幾ら穏やかな私でも、いい加減苛々してきたんだから!何よ何よ何よ!
「だから君は馬鹿だって言ってるんだ」
「何でそうなるのよ!」
「君のその考えなしの行動が、アブだけでなく僕をも苦しめているんだよ。蛇の生殺しって言葉、知ってる?」
聞き分けの悪い子どもに諭すように話し掛けるリドルに、遂にプツンと堪忍袋の緒が切れた。
「あああああ、もうっ!訳わかんないよっ!つまりどういうことなのっ!?」
思わず頭を抱えた私に、リドルはふっと溜息を吐いた。
「…――つまり、僕は君が好きだってことだよ、サラ」
判った?と言うリドルに、思考回路が停止する私。「ほら、返事」と促すリドルに、呆然とする私は何とか搾り出すように「うん」と呟いた。
難しいこと言わないで!
わ、わたしも好きよ!
しどろもどろに紡いだ私に、知ってるよと囁いたリドルの唇が舞い降りた。
(…ってことで、ごめんねアブ)(まぁ大体予想はしてたけどな)(蛇も生殺しにされるよりも一思いに殺られた方が良いだろうしね)(く…言い返せねぇよちくしょー!)