俺は変態貴族だぜ!
大広間へ足を運んでいたら、前方に見知った人影を発見。誰かを確認した途端、思わず笑顔が零れ落ちた。私は思い切り駆け出して、その逞しい背中に飛び付いた。
「アブ!おはよう!」
「お?朝から元気だなァサラは」
振り返って私を見下ろすのは、2つ年上のアブラクサス・マルフォイ。小さい頃から一緒に遊んでいたアブを、私はお兄ちゃんのように尊敬して慕っている。
「離れた方が良いよ、サラ。変態に抱き着いたら何されるか判らないからね」
諭すように私に語りかけるこの男はトム・リドル。ホグワーツ1の人気者で私も嫌いじゃないけど、アブの悪口言うなんて許せない。それに私はリドルの本性を知っているから尚更だ。裏表が激しいリドルが全く裏表のないアブを僻むなんて筋違いも甚だしい。私はむ、と頬を膨らませてリドルを睨みつけた。
「アブは変態なんかじゃないもん!」
私の言葉にリドルは明らかに怪訝な顔した。眉間には深い皺が寄せられる。発言したのは私なのに、その矛先は悠々と構えるアブに向けられた。
「……おい、お前この子に何を吹き込んだんだ」
「いやー、あははは。随分慕われちゃったみたいでねェ。恋は盲目ってやつ?」
口角を上げながら私の頭をポンポンとするアブにドキンとした。恋…してるように見えるのかな?顔が赤くなって、思わず俯いた。するとそんな私を見て、リドルはわざとらしくため息を吐いた。
「…良いかい?こいつは僕がトイレに行くと必ずついて来るような変態なんだ」
「そ…んなの私だって仲の良い友達とよくやるもん!」
リドルの衝撃発言に気圧されながら、そう反論する。認めないんだから、アブが変態なんて!キ、と睨みつける私に、リドルは哀れみに満ちた視線を送る。
「僕の飲み残しも必ず飲むんだよ?『間接キスだなー!』なんて言って」
「それは…!飲み残すリドルが悪いんでしょ!」
「毎日朝が弱い僕のベッドにも潜り込むんだ」
「……!そ、それはリドルを起こしてあげようとしてやったことでしょ!」
まくし立てるように紡がれるリドルの発言に、完全に鼻白んだ。悔しくて唇を噛んだ私の頭に再びアブの手が重なって。見上げた先にいつもの優しい笑顔があった。それを見て思わず綻んだのもつかの間。
「ごめんな」
続いた言葉は容赦なく私に追い撃ちをかけた。
俺は変態貴族だぜ!
その笑顔がただのニヤケ顔なんだと、この時初めて理解した。
(あ、でも俺ちゃんと女の子好きだからな?リドルも好きだけど)(寧ろ僕はお前から弁解の言葉がないのが悲しいけどな)(俺は後ろめたいことは何もしてないぞ!)(後ろめたいと思わないことがそもそもいけないんだよ馬鹿!)