利己主義上等



談話室でリドルと寛いでいると、不意に梟が手紙を運んできた。手紙なんて珍しい。何だろう…と待ち受けるが、封筒が手に落ちる前にリドルに隣からそれを奪い取られた。封筒は遠慮なしにビリビリと音を立てて破られる。




「ちょ…何してんの!」

「……物好きな奴もいるんだな」




そう呟くリドルから手紙を奪い返すと、そこには明日のホグズミート休暇を一緒に行こうという…所謂デートのお誘いだった。思わず緩む口元。しかしリドルもそんな私を見て不敵に笑った。




「残念だったね、サラ。君は明日、僕にバタービールを奢ることになっているんだ」

「いやいや、意味わかんないんだけど!」




当然のようにそう言うリドルに、私も当然のように突っ込んだ。思わず握り潰してしまった封筒を慌てて伸ばす。確かにこの前レポートを見て貰ったお礼に奢る約束はしてたけど、そこは臨機応変に対応するべきでしょ!?と憤慨する私にリドルは、やれやれ…と嘲笑う。




「君は僕のバタービールとデートとどっちが大切だって言うんだ」

「デートに決まってるでしょばか!」




大声で吐き捨てて女子寮へと向かうと、背中でリドルがわざとらしく溜息を吐くのが聴こえた。




****




翌日、リドルには会わずにホグズミートに着いた。警戒しながらも待ち合わせ場所に向かおうとした時、目の前に2人組を発見。2人は何かを話し込んでいるようだったが、暫くすると1人が何処かへ行った。もしかして…と近付くと、残った1人はリドルだった。




「やぁサラ。早速三本の箒に行こうか?」




飄々とするリドルに全てを悟った。多分さっき分かれた人は、私をデートに誘ってくれた人。つまりリドルは、わざわざ先回りして私を邪魔したんだ。バタービールが呑みたいただそれだけのために。




「信じられない…!」




怒りで声が震える。キ、と睨みつけた私の瞳を、リドルも真正面で受け止めた。その感情もなく真っ直ぐに向けられる瞳に、私の怒りは刺激されるばかり。




「何様のつもりなの!?いつも自分本意で私を振り回すばっかで…正直言って迷惑なの……!」




言い終わった瞬間視界が揺れた。体が何かに当たる。抱きしめられたと気付くには随分と時間が掛かって。訳がわからなくてジタバタと暴れてみるも、リドルは逃がさないとばかりにぎゅっと力を込めた。抗いようもない強さなのに、苦しくはないその優しさに、頭は混乱するばかり。




「自分本意だって迷惑だって良い。そうしないとサラが誰かのものになってしまうのなら、僕は何だってするよ」




耳元で囁かれる声は、何処か自嘲気味で。想像もしていない事態に、脳も体も動きが停止する。意味がわからない。ちゃんと説明してよ。でも、問い質したくても声が出なかった。大人しくなった私に、リドルはニヤリと笑う。




「僕は欲しいものは必ず手に入れるよ。だからサラも、諦めて僕のものになれば良いよ」

「…それ、脅迫じゃん」




思わずふっと吹き出すと、リドルは今日1番の優しい微笑みを見せた。







利己主義上等


しょうがないから諦める。


そう呟くと、満足そうに笑った唇が私のそれと重なった。





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