朝から沖田先輩に絡まれたのが強烈、というか恐ろしすぎて過ぎて午前中は失敗の連続で本当に憂鬱だった。だってあの笑顔の圧力にあの斎藤先輩ですら引いていたというのに私如きが勝てる訳ないじゃないか。
私はこの表現することの出来ない得体の知れない恐怖を誰かに理解してほしくて昼休み同じクラスの平助と千鶴ちゃんを捕まえて、屋上でお弁当を広げながら今朝の出来事を話した。すると二人とも沖田先輩のことをよく知っているからか私の話を聞いた途端顔を真っ青にしてそのまま視線を合わせてくれなくなった、…あれ?
「そりゃお前、災難だったとしか…」
「え、それだけ!?」
「だってよー、相手は総司だぜ。勝てりゃ俺だって苦労しねぇよ」
「私も沖田先輩は…」
「やっぱりか…」
自分では明るく振舞おうと心掛けていたけれど自然と顔に出てしまっていたらしく慌ててフォローを入れてくれる。
「そ、そう落ち込むなって!!成るべく力になってやるから、な、千鶴」
「困ったことがあったら話とか聞くよ!!」
「一君とか土方さんにも相談したら助けてくれるだろうし」
「ありがとう、なんか優しさが沁みるよ」
沖田先輩に目を付けられたかもしれないけれど、あの人と会って喋ったのは今日が初めてなわけだし接点だってないからそうそう絡む機会はないと思う。それに何かあっても周りが支えてくれる、はず。ちょっと一人で過敏になり過ぎていた気もするし。そうだよね、前向きに考えて普通にしてれば何も起きないよね。
「ほらもう暗い顔すんなよ。景気付にぱーっとやろうぜ」
「ぱーっと、って何?」
「何って見ての通りだろ」
「いや、そうじゃなくって」
平助に何故か渡されたのはパック牛乳。
というかこれ君の飲みかけじゃないか、しかもご飯食べてる私に牛乳渡すってどういうつもりだ。
「平助の飲みかけ貰っても困るんだけど」
「カルシウム取って心を広くしよう」
「その牛乳賞味期限切れてた、って平助君言ってたよね」
「ばっ!!それ言わないでくれよ千鶴」
千鶴ちゃんがぼそっと大事なことを漏らしてくれたおかげで平助は慌てふためいて手をぶんぶんと振る。なるほど私はごみ処理係か、って!!
「へぇぇぇ、親切にどうも。でも私は十分カルシウム取ってるから大丈夫。寧ろ平助の方がカルシウム取った方がいいと思うよ、身長的なものの為に」
「だあぁぁぁ!!それは言うなよお前、俺は成長期だから自然と伸びるから大丈夫なんだよ!!」
「そんなんこの際どうでもいいよ。なんで賞味期限切れのものくれるのかなぁ平助君?」
「きっとお前なら飲めるぜ、つーかそれくらい耐えれないと総司の圧力に耐え切れないって」
「千鶴ちゃーん!!」
「平助君…ちょっと酷いと思う」
「えぇぇ!!」
いくらなんでも賞味期限切れの牛乳はお腹壊すかもしれないから怖くて飲めないから。
千鶴ちゃんに抱き着けば千鶴ちゃんもぎゅっとし返して序でに冷ややかな視線を平助に送ってくれる。その隙に牛乳を返しておく。
「いやもうこれお前が握った時点で温くなってるからいらないって」
「いやいや元は平助のものだからいりませんよ」
「いやいやいやお前にあげる為に持ってきたんですよ」
「いやいやいやいや」
互いに押し付けあいを繰り返している内にだんだん面倒になってきてつい力が篭ってしまいパックがひしゃげて中の液体が飛び出る。
幸い私や千鶴ちゃん、平助には被害はなかったから一安心…と思っていたら急に背後の温度が下がった気がする。というか冷や汗が出てくる。それはこの二人も同じようで。恐る恐る振り返れば…
「やぁ今朝ぶりだね」
「お、沖田先輩」
笑顔なんだけど目が笑っておらず何やら黒いものが滲み出ている。そして先輩のブレザーには白い、牛乳がかかっているのが見えてしまって私の思考は一瞬にして停止してしまった。
や ば い !!
「えらく楽しそうだね」
「そ、総司…これはだな」
平助が言い訳しようとするが沖田先輩の視線は完全に私を捉えて逸らされることはない。
と、とりあえず早く謝ってしまわないと!!
「す、すみません。その、牛乳かけてしまって…、ブレザー洗ってお返ししますから」
すると沖田先輩は笑みを深くして首を振った。
「いいよ、このくらい自分で大丈夫」
「いやでも…」
「それよりさ他にすることあるんじゃない?」
「他に?」
もしかしてまた遅刻取り消せって要求されるんだろうか。千鶴ちゃんや平助も理解が出来ず首を傾げている。
「あの、何をすればいいんでしょうか?」
「決まってるでしょ人に迷惑掛けたんだから誠意を見せて謝らないとね。
だから鼻から牛乳出して謝ったら許してあげる」
「え…」
「あ、もちろん平助もね」
「俺もかよ!!」
前向きに頑張ろうと決心してからものの見事に数分で私の決心は崩れ去りました。
本当に沖田先輩怖い。
(101027~101128)