「名前先輩、千歳先輩がいません」
「財前くん捜して来てよ」
「えーめんどいっすわ」
「私は見ての通り忙しいの」
「ドリンク作るとか言って変なもん混ぜてるだけやのに?」
「なっ、失礼な!!これはみんなの為を思っての研究開発中やの」
「さっきまで面白そうにミキサーに干物ぶちこんでましたよね」
「よーしちぃちゃん捜してくるから、またねー」
「はよして下さいよ、俺と千歳先輩の試合残ってるんで」
くそぉ、最近財前くんに勝てん。入ってきた頃はあんな子じゃ、…………………、まぁ最初からあんな感じやったかもしれんけど。初めの頃よりもグサグサと辛辣な言葉を吐くようになってしまって。何やねん反抗期かっ!!
うん、あの子とは一回じっくりと話し合おう。
それより今は行方不明のちぃちゃん捜索が先。
全くどこほっつき歩いてるんよ。
ざっと見たところコート近辺にはいないらしい。
「あ、小春ちゃんちぃちゃん見てへん?」
「千歳やったらさっき裏山の方に行きよったで」
「そっかありがとう」
「ダーリン捜すん頑張ってー」
ダーリンて…。
いやいや、ダーリンっちゃあダーリンであってるんだけど。面と向かって言われると何か恥ずかしいな。
一人赤面しつつも恐らく千歳がいるであろう裏山へと向かった。
「ちぃー」
よく授業をサボるときに一緒に連れて来られたりするけど、何だか1人で来ると無性に淋しく感じる。
うん、ほんと怖くなってきたから。
まだ日は出てるけど、それでも結構薄暗くなってきたし、葉の揺れる音ですら気になってとにかく早く帰りたい気持ちでいっぱいになった。
「うー、あーもう!!帰っちゃっていいやんな」
もしかしたらもうコートに戻ってるかもしれんし。財前くんには悪いけど私は怖い思いをしてまで他人の為に動けんから。今度からは自分で捜させよ。あ、でもそれで蔵に遊んでたことチクられてまた怒られるんも嫌やな。うん、でも今日のところは大人しく帰りますー!!
と、寂しいので何となく自分だけで自己完結させて帰る気になっていた。その時、
ガサガサッ
「……え」
来た道を引き返そうとした時だった。
ガサガサッ
え、ちょいタンマ!!何このありきたりな展開。
名前はギョッとして音のした茂みを凝視した。
お、おばけ…なんてそんな非科学的なもの私は認めん!ていうかそんなのおるわけないし。
じゃ、じゃあもしかして猪?こんなとこに猪って住んでんのかなぁ。
ガサガサガサガサ
「ひっ!!」
音はどんどん近付いてくる。早く逃げろ、と頭では思っていても足が竦んでしまって動かない。
ガサガサガサガサッ
「い、いやぁぁぁぁあ!!来んな、そして逃げろ私ぃぃい」
「え、ちょっ…」
黒い影が見えた瞬間今まで固まっていた足が突然動いて自分でもあり得ない速さで走った。多分タイム測定してたら新記録やったかも。とにかく無我夢中で走っていた。
が、腕をひっぱられて逃走は失敗した。
どうやら猪ではなく人だったらしい。
というかそれはそれでなかなかまずい。変質者とかやったらどうしよ。
「離して、警察呼ぶで!!」
「ちょ、名前落ち着くたい」
必死に抵抗して振り払おうとしたらギュッと包み込まれて、驚いて顔を上げたらちょっと困り顔の千歳がいた。
「なんでちぃが?」
「こっちも何で警察呼ばれるか分らん」
それは私が変質者やと勘違いしてただけやけど。
「あーなんか無駄に寿命縮んだ」
「そげんこつ言っても声掛けようとしたら急に名前が走り出したと、追い掛けるしかなか」
「そもそもちぃが悪いねんから」
あんたが勝手にふらふらしてたせいでこっちはめっちゃ怖い思いしてんから。文句を言ってやろうと思ったけどなんか安心したら涙が出てきてそれどころじゃなかった。
次黙ってどっかに消えたら承知せんから。
その後は前が霞んでてよく分らんかったけど慌てたちぃが泣いて動けない私を抱っこしてコートまで連れて帰ってくれたらしい。
既に部活は終わっていて蔵には怒られるし、謙也とかには冷やかされるし、オサムちゃんに二人揃ってお呼出をくらってほんま散々な一日やった。
このお礼は高くつくから覚悟しといてよ。
迷子探しは勘弁して下さい
(そういやなんであんな茂みから出てきたん?)(ちょっとした冒険気分、みたいな)(・・・・・・)
後日、財前くんが私の研究を蔵に報告したらしく再び怒られました。
ほんまついてない。