※夢じゃありませんでしたの続き


絶対零度の空気が漂う室内には異様な光景が繰り広げられていた。


呆れ顔の不知火と気まずそうに見守る天霧。私の横には一さんがいて、鬼の形相、と言うか実際に鬼の千景の前に座っている。そして千景は大変不機嫌そうな雰囲気を醸し出している。

「よもや人間風情が一人で鬼の里に乗り込んでくるとはな」
「俺はあんた達と戦うつもりはない」

一さんが私の手を握り、一歩前に寄れば千景の額に青筋が浮かぶ。


「名前を嫁に貰いたい」
「死にたいか貴様」
「ちょっと落ち着けって」


今にも飛び掛かりそうな千景を不知火と天霧が押さえつけ宥めつける。二人は端から私達の結婚を認め祝ってくれていた為こちら寄りの立場を取ってくれているけれど問題はこの人。こんなことをかれこれ三時間程続けているのだけど、一体どうすればいいんでしょうか。流石に面倒なんでいい加減止めてほしいんだけどな。

そもそも何故こうなったのか、その原因は先日挨拶に新選組へ出向いた際に土方さんが発した言葉がきっかけだった。


「お前、風間の奴には言ったのか、結婚のこと」
「言ってませんよ、そんなことしたら千景ブチ切れるの目に見えてますもん」

外出すら簡単にさせてくれないやつが結婚を許す筈がない。全力で邪魔するに決まってる。

「お、お前なぁ…。今言っとかねぇと後で更に面倒なことになるだろ」
「そうだけど…」
「後からあいつが知ってもし新選組に乗り込んで来たりしたらこっちが迷惑なんだよ。そういうことがないようにする為に前もって言っとくんだ」
「確かに新選組に影響が及ぶのは避けたい」
「一さん」
「大丈夫だ、俺が何とかしてみせる」


とかいうやり取りがあったわけだけど、本当に大丈夫なんだろうかこれ。一さんの為にも新選組に迷惑を掛けないようにこうして報告に来たけど、やっぱり予想道理の展開になってしまった。もう言ってしまったのだから逃げようもないし、とことん開き直って押し切る以外手立てがないのは分かってるんですけどね。


「何故名前を人間の元へ嫁がせねばならんのだ」
「それが意味分かんないって言ってるでしょ」
「お前は純血の貴重な女鬼だ、相手はそれなりの血筋の鬼が相応しい」
「私にだって選ぶ権利あるわよ、どうして私の意志は無視するの!!ていうかそんなこといって結局相手追い返したことあったよね」
「ふん、昔のことなど忘れたわ」
「そういう自分勝手なとこが嫌いなのよ」
「何だと?」

千景が目を見開き痛いくらいの殺気をむけてくる。でもここで負けちゃ駄目、私は一さんと一緒に幸せになるって決めたのよ。
繋いだ手をしっかり握り覚悟を決める。

「私は千景の所有物じゃないのよ。だから誰と結婚しようが私の勝手でしょ」
「だが俺は…」
「風間」

一さんも私の気持ちを察してくれたのか千景への口撃に加わってくれる。

「もしも名前のことを大事に想っているならここは素直に祝ってやるべきではないのか」
「人間が口出しするな。大体貴様が名前を誑かさねばこんなことにはならなかった!!」
「誑かすとかそんなことあるわけないでしょ。ただ単純に惹かれただけなの」
「戯言を…。所詮は人間だぞ、決して俺達と相容れる存在ではない。ましてやこいつは新選組のやつだ、良いように利用されるだけに決まっている」
「人間だとか鬼だとかは関係ない。俺は名前だから好きになっただけだ。決して利用しようなどと思っていない、もしそんなことを考える者がいるならどんな手を使ってでも俺は名前を守る」
「一さんは私のことを大事にしてくれるから、千景は心配しなくていいよ」
「だから、そのようなことではなく…」

千景が言い淀んだところを畳み掛けるように不知火と天霧が加勢してくれる。

「もう名前も子供じゃねぇし好きにさせればいいじゃねぇかよ。せっかくこいつを貰ってくれるって物好きがいるんだ、この機を逃したら一生独り者になっちまう」
「何調子に乗って言ってるの」
「不知火はややこしくするな。しかし彼なら名前を大切にしてくれるから安心でしょう。いい加減認めてあげたらどうです」



そしてとどめの一言

「ここで大人にならなければ千鶴ちゃんに振り向いてもらえないわよ」


押し切りました


「ぐっ…!!」


「おめでとうございます」
「今のうちに好きなとこ行っちまえ」
「ありがとう二人とも」
「絶対に名前を幸せにしてみせる」




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