一度だって忘れたことはない。記憶の中にある幼い日のままの姿、いつだって俺に微笑んでくれる。


「名前…」


初めはただ歳が近い女鬼、所謂幼馴染というだけの認識だった。ただ俺の風間家同様苗字家も西ではかなりの力をもった純血の血筋。一族としては将来を考えて引き合わせたのであろう。裏で様々な思惑があったとはいえ俺は自然と名前に惹かれ、純粋に愛おしく守ってやりたいと思った。か弱くも鬼としての誇りを持ち気高く清廉潔白な存在。世の中に溢れる穢れを知らぬその美しい紫苑の瞳に汚らしい欲に塗れた人間などを映させるなど、今思っただけでも腹が立つ。


名前の住む里が人間の襲撃を受け壊滅したと聞いたときほど人間を憎いと思ったことはない。
平穏だった里は見るも無残な焼野原となり、あちこちで死臭がする。この中に名前がいると思うとなんとも言い難い哀しみと虚脱感に見舞われた。
何故、このような仕打ちを受けなければならない?我等は人に迷惑を掛けるどころか関わる気さえないのに。


しかし憤る気持ちを抑え一通り里を見回ったところである疑念が生まれる。

名前の両親の遺体は見つかったのだがどれだけ捜しても名前の遺体は見つからない。


炎に焼かれ灰になってしまった可能性も無くはない。しかし確証はなのだが名前は死んでいないという自信があった。逃げ延びたかあるいは連れ去られた、いずれにせよ両親を殺され里も焼き払われ帰る場所を失い辛い目にあっているはず。

一族の者には戯言だと軽くあしらわれたが俺は密かに名前の行方を捜し続けた。
そして家督を継ぎ一族を背負う立場になった今でも諦めきれずにいる。
周りからは世継ぎの為にも早く嫁を娶れと煩く言われるが俺にはどうしても他の女など目に入らない。女々しいと笑われようが初めて愛おしいと思った名前以外を愛せる気がしない。



「名前、俺はもう一度お前に会いたい」



無事でいるのか?いつか必ず迎えに行くから、それまで待っていろ。





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