無機質な薄暗い部屋、沢山の研究機材に囲まれたベッド、自分の身体に繋がる無数のチューブ。時間の感覚が無くなってしまうこの場所でいつも薬品投与、気の狂いそうな実験の繰り返し。これが私の存在価値なのだと言い聞かせる大人達に逆らうことも出来ずただ終わりのない苦しみの中をずっともがいていた。

人造使徒───そんなものに一体いくらの価値があるのか、私には理解出来ない。他の二人と違って私は耐久性に欠けて手の掛かる不良品だと何度言われたことだろう。それならばいっそ殺してくれれば良かったのに、出来損ないながらも確実に人間離れしたこの身体がそれを許さなかった。



「名前、名前!!」


それはいつもと同じ長い実験の合間のほんの僅かな休息時間、私が眠ろうとしていた時だった。不意に研究員の男が部屋に飛び込んできて私の姿を見付けるなり捲し立てるように怒鳴った。


「早くお前もアルマを止めてこい」

「い、たっ」


男はチューブやら点滴の針やらを乱暴に引きちぎると、背中を強く押して私を廊下へ放り出した。滅多に部屋から出してくれないのにこうもあっさりと。それに男の焦り具合とさっきの言葉。きっと何かあったのだろう、状況は分からないが嫌な予感がする。微かに漂う血の臭いのする方へ震える足を向けた。




それは外の世界を全く知らない私にも理解出来た、地獄とはこのことを指すのだと。




「ユウ……?」
「…名前……」



血塗れで倒れる研究員達、その真ん中に立ち尽くす私と同じ被験体のユウ。そしてその足元に散らばる真っ赤な塊。私が思わず目を背けてしまったソレを彼はずっと見つめている。



「アルマが暴走した」



「おれがアルマを壊した」




それだけ伝えると事切れたようにユウは倒れてしまった。私は急いで駆け寄るとユウを抱き起こし、周りに散らばる塊を見た。


「アルマ、なの?」


しかしその残骸は答えない。漸く頭が回転し始め状況を飲み込むと言い知れない虚無感と罪悪感に襲われた。


「何も出来なくて、ごめん……」



後で聞けば、もう一人の被験体であるアルマが実験の途中でいきなり暴れ研究員達を殺していき、私とユウがアルマを止める為に使われたらしい。しかし私は何もしていない。実際に止めたのはユウだ。彼は友達であるアルマを手に掛けた、それは体験していない私には到底理解の出来ない痛みを伴っただろう。元々騒いだりするような性格ではなかったがあの事件以来ユウは人を寄せ付けなくなり、時折思いつめたような表情で遠くを見つめることが多くなった。
私はというと相変わらず部屋に閉じ込められてチューブで繋がれている。不良品だからお前も暴走し出すかもしれない、と以前にもまして厳重な監視のもと過ごすことになった。



「莫大な金と時間を費やしてせっかく利用価値を見出してやろうとしているんだ。お前達は黙って私達に従っていればいい」




あれから数年、私は教団にエクソシストそして正式に入団した。
第二エクソシストの、私達の価値とは一体何なのか、ただ身体を弄られ神の為に戦う兵器となることに価値があるのか、友人に手を掛けさせてまで研究成果を一つでも残すことに意味があったのか、未だその答えは見つからない、そしてこれからも見つけることは出来ないだろう。しかし別にそれでも構わない、今の私にとってそれはもう重要なことではなくなっていた。教団での生活を通して人間としての新たな価値を見出すことが出来るようになったから。
殺されたアルマ、アルマを殺したユウ、何も出来なかった私。もし私達が別の場所で出会っていればもっと違う関係を築くことが出来たのでは、と何度考えたことだろう。しかし今となってはもうどうしようもないこと。アルマはいないのも、この身体から逃げることが出来ないのも全部受け入れなければいけない事実。
それならば精一杯生きることが今の私に出来ることだ、一杯足掻いてこの身体が動かなくなるまで戦い続けることが私の生きている価値なのだろう。


わたしのいきるかち





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