朝焼けの空を眺め大きく息を吐き出した。

土方さんと別れて会津の地に残り何度目の朝だろう。今は時間が経つのも分からないままただ刀をを振り、斬り続けるのみ。


鳥羽伏見の戦いで賊軍となって以来劣勢を強いられている旧幕府軍がこの会津の戦でも勝てる見込みは殆んど無に等しい。そんな地に残り戦うなんて自ら死にに行くようなものだというのは重々承知している。だがそれを選んだのは紛れもなく自分自身。本物の武士でありたいと、最期まで信念を貫き通すと決めたのだから。


「一君」
「名前か…」

後ろから聞こえた声に振り返ると見馴れた姿が目に映る。

「どうした、まだ休んでいて大丈夫だぞ」
「別にどうもしないけど、ちょっとね。そういう一君こそちゃんと休んでるの?」
「…ああ」
「心配だなぁ、あんまり無茶しないでよ」
「無茶はしていない」
「一君って人より我慢するからあてにならないなー」
「お前も似たようなものだろ」

悪戯っぽく笑う名前につられて思わず笑みが零れる。
いつ何が起きるか分らない、精神的にも肉体的にも追い詰められた状況であってもまだ笑うことが出来るのはきっと名前がいるからだろう。


死ぬ覚悟など刀を握った時から出来ている。だから会津に残ると決めた時も、この地で武士として潔く刀で斬られ死のう思っていた。
だが今は名前の存在がその思いを鈍らせ、生に対する未練を起こす。
彼女自身もいつ命を落とすやも知れないと分かっていて刀を振るっている。しかし彼女は自分とは違った。その小さな身体で刀を振るのは死ぬことを目的としてではなく懸命に生きるため。

散っていった仲間の為にも戦い、仲間の分も新しい時代を生きる、と。


その凛とした姿に、戦場で不謹慎だと思いつつも名前を愛おしいと思った。
自分一人では気付くことの出来なかったことを彼女は教えてくれたのだから。


「死ぬなよ」


不意に零れた言葉に自分でも驚いている。良い悪いは別として俺はこの戦で変わったのだろう。名前も意外だったのか少し目を見開いていた。


「珍しいね、一君がそんなこと言うなんて」
「別に大した意味はない。ただ何となく言ってみただけだ」



この道を選んだことを後悔などしていない。たとえ無謀だとしても会津の為に命を賭けて戦うという気持ちは変わらない。だがここで終わりにするつもりもない。彼女と生きたい。この戦いに生き残り刀なき武士が生きる新たな時代を彼女と共に見届けたい。それが俺の使命でありそこにこそ追い求めていたものがあるはずだから。



「一君も死んだら駄目だからね」
「安心しろ、俺も死ぬつもりはない」

そしていつか彼女に芽生えた想いを伝えてみせよう。だからそれまでは…


戦場での誓い

(きっと生き抜いてみせる)




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