『凛ちゃん、明日で夏休みも終わりだね。もし暇だったら家に来ませんか?』

留守番電話に残る彼女の可愛らしいお誘いメッセージに条件反射で期待してしまうのは思春期男子高校生としては仕方のないことだろう。
高ぶる気持ちをどうにか堪えて、あくまでスマートに。あまりがっついて幻滅されないよう脳内シミュレーションを何度も繰り返し、万全の状態で彼女の家へと向かった。



「どういうことだこれ」

「凛なら私を助けてくれるって信じてたよー」


迎え入れられた時に彼女の両親が不在であると告げられ思わず玄関先で押し倒しそうになったのをちっぽけな理性で押し留めた矢先。彼女の部屋に入った途端嫌でも目に飛び込んできたのは部屋の中央に置かれた小さなテーブルとプリントの山だった。

凛は顔が引き攣るのを隠せずに、まさかという思いで名前を見る。


「夏休みの宿題がまだ終わってないの」

「今日俺を呼んだのってまさか」


その答えとして少し俯き加減で名前が傍に寄って来たかと思えばそっと凛の胸元に手を沿わせ、潤んだ瞳で下から顔を覗き込むというなんともけしからん、もとい心臓に悪いそして理性を破壊する行動に出てきた。

「手伝って、ほしいな」

普段は滅多に聞かない甘い声が追い打ちをかける。
これが名前の狙いなのだと頭では分かっていても、手を差し伸べられずにはいられない。凛は大好きな彼女のお願いに弱かった。


「…この代償は高くつくからな」

「わーい凛ちゃん大好き!!」

「お前は俺を試しているのか」


がばりと抱き着いてくる名前。宿題を終わらせるまではと必死に堪える筈のものを一瞬で決壊させるだけの威力を持つハグ。なんせ薄いキャミソールに短パン姿なのだから視覚的にも、伝わってくる柔らかな感触的にもいろいろとヤバい。

これは前払いOKなのか。
いや、間違いなく誘っている。


堪らず抱きしめ返そうとした瞬間、凛の腕は虚しく空を切った。
名前の表情は先程とは打って変わってケロッとしており、その意識は早くもプリントの山に向かっているらしい。そんなことなら夏休み中に計画的に終わらせられたんじゃないのか、と心の中で突っ込まずにはいられなかった。


「ほらほら早く座って!!さっさと手を動かして」

「お前まじ何様のつもりだよ」

「名前様?」

「ざけんな」


すると何かを考え込む素振りを見せたかと思うと再び名前が傍にやってくる。今度こそは引っ掛かるものかと凛が身構えれば名前は小さく笑い、耳元に口を寄せそれはそれは色っぽい声で囁いた。


「早く終わらせられたらゆっくり、いちゃいちゃ出来るのよ」

「っあああ!!こんなん一時間で終わらせてやるよ!!」


都合よく転がされてるのが何だ、健全な男子高校生なんてこんなもんだよ!!


愛しの女王様
(名前が可愛すぎて堪らない)




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