新学期が始まり数日経ったある日、隣の席にあるモノが置いてあるのを発見してしまった。あの、丸みを帯びたフォルムに吸い込まれそうな鋭い眼光。

「イワトビちゃんだ!!」

大好きなキャラクターのストラップに思わず視線を奪われる。

お隣さんの七瀬くんももしかしてイワトビちゃんのファンなんだろうか。いや恐らくそうなんだろう、間違いない。だって水着バージョンのイワトビちゃんストラップなんて限定品を持っているんだから。
いつもミステリアスで全然喋ったことのない七瀬くんだけど、少し仲良くなれそうな気がして何だか嬉しくなってきた。


「何か用?」
「七瀬くん!!」


にやけているとこバッチリ見られた!!
慌てふためく私を余所に七瀬くんはいつもと変わらずクールなまま、静かに席に着くと用件はなんだと視線で促してくる。

物凄く恥ずかしいけれど、折角仲良くなるチャンス。そしてこのイワトビちゃんの入手先を聞く絶好のチャンス!!


「あ、あのこれ」

七瀬くんの机の上から猛烈にこちらを見つめてくれているイワトビちゃんを指差す。ああやっぱり可愛い、水着姿も似合ってて愛らしいです。


「欲しいのか?」
「う、うん。どこで買ったのかなぁーって」
「水泳部」
「へ?」
「水泳部の入部特典。今入ったら特別に2つ付ける」
「あ、そういや新しく出来たんだっけ。七瀬くん水泳部なんだ」

あの荒れきったプールを新しく出来た水泳部が修繕して使えるようにしたらしいって話は広まっていたけれど。
うーんそれにしてもこのイワトビちゃん非売品だったのか。流石に水泳部に入ってまで欲しいのかと聞かれると、…頷いちゃいそうにもなるけれど、私ここ数年泳いでいないし、部活でやるほど自信もない。


「あんまり泳ぐの得意じゃないんだよね」
「上手い下手は関係ない。大事なのは水が好きかどうかだ」

それまで淡々としていた七瀬くんに急に謎のスイッチが入ってしまったみたい。少し喰い気味にこちらに身を乗り出してきた。


「苗字は水、好きか?」
「え、水…?」
「なぁ好き?」

突然の質問の意味はよく分からないが、綺麗な青い瞳を爛々と輝かせ、痛いほどの期待を込めて見つめられているのでここは大人しくはいと答えておいたほうがいいのだろう。
恐る恐る、好きだと答えると私の返事に満足したのか嬉しそうにしていた。

やっぱり七瀬くんてミステリアス。


「そんなに好きなのか」
「え、水が?」
「いやこれ」

彼はイワトビちゃんを差している。私は今度こそ自信を持って頷いた。

「だって可愛いんだもん」
「じゃあ内緒で1つやる」
「でもこれ入部特典なんでしょ」
「一杯作って余ってるから。それにまだ新しいのも製作中だし」
「え、これ七瀬くんが作ってるの!?」
「そうだけど」

なんと!!水泳部の入部特典らしい非売品イワトビちゃんストラップ水着バージョンをどこで用意したのかが疑問だったけれどまさか手作りだったなんて。人はどんな才能があるのか見た目だけでは分からないものだ。


「凄い!!七瀬くんて器用なんだね。こういうの作ったりするの好きなの?」
「別に…」


照れているのかそっぽを向いてしまった七瀬くんに、貰ったイワトビちゃん大切にするねーと告げると小さく頷いてくれた。
今日はこの子のお蔭で七瀬くんとも少し仲良くなれた気がする、ホント大切にしなくちゃ。


すっかりるんるん気分だった私が早速カバンにストラップを付けていると隣から、物凄く魅力的なお誘いが掛かって思わず彼を凝視してしまった。

「水泳部入ってくれたら苗字のリクエストに応えて作るけど」





「入部希望者連れてきた」
「えええハルちゃんが女の子連れてきたー!!どうやって口説き落としたの!?」
「ちょ、渚そんな言い方は。いやでもあのハルが一体どうやったんだ」
「これで釣れた」

「「イワトビちゃん!?」」




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