「帰ってくるなら前以て連絡してよね」
「…おー」
「大体何時だと思ってるのよ。それに私明日学校なんだから」
「…んー」
「聞いてるの凛?」
「…へー」


オーストラリアから帰ってきたのだと知らされて驚いたのはついさっき。いやまず数年ぶりに再会した幼馴染が夜遅くにやってきたことの方がびっくりした。偶に連絡は取っていたけれど一度も会うことはなかったから、まさかあんなに可愛らしかった凛が大きくなって、あの頃とは全然違う素っ気無い態度を現在進行形で取り続けているのだから困ったものだ。

ちょっと寄って顔見せる程度かと思いきや勝手に人の部屋に上がり込んで、私のベッドを占拠してくれている。
人の話も上の空だし、これは本格的にどうしたものか。


「ねぇ一旦家に帰らなくていいの?まだおばさん達にも会ってないんでしょ」


遂には反応なし、…図星か。

しかし帰る素振りもない凛にこれ以上何を言っても無駄だろう。
未だ寝転がって独占されているベッドの端に腰を降ろしてみると、これまでぼーっと天井を眺めていた凛が漸く此方を向いてくれた。



「帰ってきたらお前に、一番最初に会いたかった」


突然真面目な表情でそんな殺し文句、一体いつの間に覚えたんだ彼は。どきり、と心臓が音を立てて落ち着かない。

なんだか此処までの一連の行動とちぐはぐな台詞を笑ってやろうと頭をフル回転させていると、お腹の辺りに軽い衝撃を喰らった。


「俺、鮫柄に行くから」


凛が私のお腹にタックルを決めて抱き付いていること以上に急に弱くなった声色に戸惑った。

鮫柄学園と言えば水泳の強豪校として有名だから其処に転入することはなんら不思議ではない。

ただ少しだけ寂しいけれど。


「そ、うなんだ。なーんだてっきり凛も岩鳶だと思ってたから残念、せっかくまたハル達と一緒に泳いでる凛が見られると期待してたのになぁ」


思ったことを自然と口にしただけ、しかし確かにハルの名前を呼んだ瞬間、回された腕の力が微かに強くなったのを感じた。


「もう…昔の俺とは違う。アイツらと馴れ合うつもりもねぇよ」

「凛…」

棘のある突き放した言い方に何処か違和感を感じたが、凛の身体が微かに震えていることに気が付き私はそっと背中に腕を伸ばして凛を受け止めた。


「なぁ名前は嫌いか?昔とは変わった、俺のこと」


強気になったり弱気になったり。表情がころころ変化するのはあの頃と一緒だけど、今の凛はとても不安定で放っておけない何かがある。

大丈夫絶対にこの腕を放さない、そんな思いを込めて凛を抱きしめる。


「嫌だったら真夜中に押し掛けてきて人の部屋に居座り続けている凛ちゃんをとっくに追い出してるでしょうが」

「名前」


顔を上げた凛の綺麗な瞳が不安げに揺れている。

それを見た瞬間、凛を一人にしては駄目だ、と本能が告げた。否、初めから答えは決まっている。


「大丈夫だよ、私は何があってもどんな風に変わろうとも凛のこと好きだもん」


だってどんなに強がってみせても中身はちっとも変ってないの、会ったのは数年ぶりだけれど私には分かる。ただ、今はちょっと壁を作ってるだけ。凛にも凛の事情があるからどうしたのかとかを無理に聞き出すつもりはない。けれど何があっても私は凛の傍にいるから。





(凛が一人で沈んでしまわないように、私がその手を掴んで放さない)



title;花洩





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