「最近なーんかぼんやりしてるよね」
「そうでしょうか?」
練習終わりに寮へ戻る道すがら何気ない会話の途中で突然彼女が放った言葉にトキヤは首を傾げた。
最近はさほど仕事が忙しくないので十分休息も取れているように思うのだが。
だがもしかしたら自分自身気付いていないだけで気が緩んでいる、とでも言いたいのかもしれない。彼女は私のパートナーだ、きっと練習中に些細な変化に気が付いたのだろう。
「練習してても心ここにあらずーって感じだし、授業中も結構ぼんやりしてるよ」
「気が付きませんでした、というか何故授業中のことまで知ってるんですか。私の席は貴女の真後ろですから姿は見えないと思うのですが」
「だって後ろからずっと溜息聞こえてくるもん。それにレン達もトキヤの様子が変だって言ってる」
まさか周りに勘付かれるほどに気が緩んでいたとは、しかしこれといって思い当たることは…。
「もしかして恋煩いとか?」
「……はぁ?」
予想の斜め上を行く展開にいまいち頭が付いて行かない。
しかし彼女の瞳が爛々と輝いていたことに気付いた瞬間なんだか嫌な予感がして背筋が寒くなった。
「大丈夫!!私口堅いからトキヤに好きな人いるってばらさないから、だから
好きな人いるなら協力してあげる!」
ぐっと拳を握りしめた彼女はやる気に満ち溢れた様子で嬉しそうにこちらを見詰めている。
恋愛禁止の校則があるのにそれを堂々と無視して協力するとはどういうつもりなのだろう、いやその前に何故彼女は恋煩いという結論に至ったのか。
というか、その好きな人というのが目の前で張り切っている張本人だなんて言える筈がない。
(120217~130523)