朝、校門を入って直ぐの所に黒山の人だかりが出来ているのを発見した。どうやら先に家を出た自分の半身がその中心にいるらしい。


「うわー、今年も蔵貰いまくっとるなぁ」


無駄に顔が良くてモテるから毎年バレンタインデーには大量の貢ぎ物を貰って帰ってくる。そして一人じゃ処理仕切れないということで私や姉の所にもお裾分けがやってくる、だから今日だけは蔵の妹で良かったと思う。必死に渡している子達に悪い気はするけれど。


頑張れよ、と心の中でこっそりと応援してその場を後にした。





学校内の至るところで告白シーン、いちゃつくカップル、ピンクムード一色である。そして私もその雰囲気に浮かれてたりする。





(早く千里来んかなー)




今日はちゃんと来るって昨日の夜電話した時に言ってたのに、どこほっつき歩いとんねんあのもじゃっ子。

普段から遅刻せずに来ることの方が珍しいくらいだから、多少遅刻するのは予想していた。けど、けど!!!もう昼休みやん。遅過ぎやろ、どんだけ焦らしプレイ!?
時間が経つにつれ教室の千里の机やはたまた靴箱には直接渡すのを諦めた子たちがどんどんチョコレートを置いていくものだから、いくら千里が私だけを見てくれているとはいえ何と無く気分が悪い。





「なぁ、酷くない?いつまで待たせんねん。周りでイチャイチャイチャイチャ…溶けてまうやろーが!!」
「まぁ落ち着き。チョコやるから、な?」


ずっと教室にいたら何かやらかしてしまうかもしれないので蔵と謙也を屋上に無理矢理引っ張って行き愚痴を聞いて貰っている。

二人にチョコ渡したい子には悪いけど、今誰かに話聞いて貰わな私絶対暴れてまうから。
あ、でもなんかだんだん怒りより不安の方がでっかくなってきた。
…浮気、とか事故とか。






「せんり…、会いたいよー…」
「心配せんでもちゃんと来るわ。どうせまたその辺うろついとるしてだけやろ」
「名前ー、そんな顔せんとって。俺まで悲しくなるやん」
「いや、白石はきもいわ」
「うっさい、そうや。謙也がむっちゃおもろい新ネタ見せてくれんねんて。」
「なんやねん新ネタって、ハードル高すぎやろ!!てかそんな気になるんやったら電話したらええやん」
「電話して出んかったら…」
「出るわ、あいつに限って浮気なんか絶対ないし」
「掛けてみ。万が一出んかったら謙也しばいたるから」
「やからなんで俺やねん!!」



掛けるん怖いけど、きっと千里は出てくれる。


もし出んかったらそん時は謙也しばいて蔵のチョコ全部食べたろ。作ったチョコはオサムちゃんにでも恵んであげて…。



「よ、よーし」


深呼吸をして呼び出しボタンを押した。
いつ以来やろ、こんな緊張して電話すんの。


1コール、2コール…
無機質な音が響く。


なんで今日こんな晴れとるのに私はこんな苦しい思いしとんやろ。いっそ学校さぼってどっか行ったろかな、うんそうしよ。川原でも散歩しよ。散歩、さんぽ………あれ?




携帯を当てている耳とは反対の耳の方に微かながら伝子音が聞こえる。


「え、どこ?」



発信のまま携帯を片手に音のする所を探した。
どうやら給水タンクの上かららしい。




急いで登ってみれば千歳が寝転がっていた。そしてポケットの携帯からはさんぽの着メロが流れている。



「千里!!なんでこんなとこで寝とるんよ」
「…………ん、名前?」

ゆっくりと目を覚ました千歳はふにゃっと笑って呑気に、どうしたと?と言った。


「なんや千歳こんなとこおったんか」
「名前めっちゃ探しとってんぞ」


いつの間にか白石と謙也も上に上がって来ていて、名前は気が抜けて座り込んだ。

「会ったらいろんなこと言ったろって思ってた」
「うん」
「でも、なんか実際会ったら…。…安心した」
「ほんますまん。でも嬉しか、名前が心配してくれて」
「………あほ」


千里に頭を撫でられて子供扱いされているみたいでムッとしたけど、それでも凄く安心した。




「じゃ、お邪魔者は退散するから仲良くしーや」


なんか振り回してしまって二人には申し訳ない気になった。うん、後で義理チョコ渡してちゃんとお礼言っとこう。でも今は目の前のこの人。



「何で此処におったん?」
「今日バレンタインやろ、1番に名前からチョコ欲しくて早く学校来て待っとったたい。ばってん、名前が来る前に女の子らが寄ってきて…」
「ここに逃げたん?」
「ぽかぽかしとったけん、気付いたら寝とった」



何というか、千里らしい。ずっと腹立ってたけど、一番最初に私のチョコを受け取る為に隠れて(寝てただけやけど)くれてたんや、って思ったら急に恥ずかしくなった。あかん、私めっちゃ千里のこと好きや!!



「でも、心配かけたことまだ許してへんから」



蔵と謙也が行くときに置いてってくれた食べ終わった私のお弁当箱と昨日の夜綺麗にラッピングしたそれ。
ラッピングした方を千里に押し付けるように渡したらキョトンとした顔で見つめられた。


「一番はちゃんと私のやつ貰ってんから、今日はずっと一緒におってよ」
「〜っ、名前!!好いとるよ」

ぎゅうぎゅうと抱き付いてくる千里を何とか引き剥がし首に腕を回してわざとらしく顔を近付けた。今日はピンクムードがあたり一面漂っているからちょっとくらい、ね。




「キスして」
「名前愛しとる」




ちゅっとくっついた千里の唇は少し乾燥していたけど、とっても暖かくて太陽の匂いがした。






一緒に散歩にでも行きましょう。









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Happy Valentine!!

20090214







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