午後の授業を受ける気分にならなくて何となく普段は滅多に来る機会の無い保健室を訪ねてみた、がそこに部屋の主の姿はなかった。
「星月先生いないのー?」
暇だから一緒にお茶でもして時間を潰そうと思ったのに。かといって教室に戻るつもりもない。
どうしようか、誰もいない静かな保健室をぐるっと見回してみて考えること数十秒。
「…やっぱ見て見ぬふりは出来ないか」
盛大に散らかった保健室、先生が戻ってくるまで待とうと思ったけれど流石にこの汚い部屋にいるのは落ち着かない。月子ちゃんの話で聞いてはいたけれどこの汚さは一体…。私だってあまり片付けは好きじゃないけれどここまで酷いとわざとか、若しくは才能としか思えない。
「先生を待ってる間の暇潰しにはちょうどいいか、な?」
今ここにいない散らかした張本人が帰ってきたときにびっくりさせてやる。そう思うと私は早速積み上げられた本の山に向っていった。
理事長室に籠って仕事をしていたら思っていたより時間が経っていたらしい。保健室を出た頃はまだ昼前だったのに気付けばもう放課後だ。気持ちは早く帰ってしまいたいのだが生徒の下校時間までは保健室を開けていなければいけない。
「面倒だ…、一眠りするか」
扉を開けたところで俺は足を止めた。数時間ぶりに戻ってきた保健室は、出ていく前と様子が変わっている。
「夜久が来たのか?」
いつも俺に小言を言いながら部屋の片付けをする保健係が思い浮かんだ。しかしあいつは大会が近いから当分は来れないと言っていたはずだ。
じゃあ誰が…?
ふと目に留まった部屋の奥にあるベッドの一つ。半開きのカーテンの中をそっと覗くと布団を被って丸くなっているこの学園もう一人の女子生徒の姿が見えた。
「なんでお前が寝てるんだ」
いつからここで寝ているのか、保健室を片付けてくれたのか、聞きたいことは沢山ある。そのためにまずは起こそうと近付いて顔を覗き込んだらその表情があまりにも気持ちよさそうで何だかこのままにしておいた方が良いのでは、と思ってしまう。
そういえばこいつが保健室に来るのも凄く久しぶりだっけか?
起こさないようそっとベッドに腰掛けるとサラサラなこいつの髪を撫でてやる。普段は滅多に見ることのないそのあどけない寝顔に思わず口元が緩む。
「今日だけだからな」
どうせ保健室を閉めるのもあと少し、それまで吹き飛んだ睡魔の代わりにこいつの寝顔を堪能させてもらうのも良いかもしれない。
「おやすみ、良い夢を…」
そっと頬に唇を落としたのは内緒だ。
眠る美しさよ永遠に
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「あ、あれ!?何時の間に星月先生…って私寝ちゃってた?」
「おはよう眠り姫、部屋の片付けありがとな」
110621~110922