「ようやく逢えたな我が妻よ」
「どちら様?」

いきなり家に押し掛けてきたその男は私の手を掴んで離さぬまま何やら勝手なことをずっと言っている。が、私には全く身に覚えのない話ばかりで意味が分からないし、こんな夜遅くに見ず知らずの男を家に上げておくのも嫌だしなんとかして出て行ってもらわねば。雰囲気的にも不審者っぽいし。

「とりあえず出て行ってくれませんか」
「言われずとも今日はお前を連れて帰るつもりだからな」
「は?」
「俺の里へ来い。心配せずとも準備は既に整っているからいつでも祝言は挙げられるぞ」

追い返そうと睨めば男の真紅の瞳に射抜かれて思わず身が竦む。それより今なんて?祝言とか単語が聞こえてきたのは気のせいだと思いたい。そもそもこの男は何処の誰なのかすら知らないのだし。

「私は貴方と初対面だと思うんですが」
「その通りだな」
「そ、その通りって!!そんな見ず知らずの人にいきなり祝言挙げるとか言われても意味が分からない」
「だがお前は我が妻になる、そういう運命だ」
「どういうことよ」
「お前が純血の鬼だからだ」
「お、に…?」

不意に御伽噺に登場する架空の化物が頭をよぎったが、あれはあくまで作り物で本物の鬼が存在するなんてそんな莫迦みたいなことあるわけない。しかしそんな莫迦みたいなことを真剣な表情で言うのだから何も言い返せなくなる。

「お前は人の世で暮らしていて鬼として完全に覚醒していないから気づかぬのも無理はない」
「じゃ、じゃあ貴方も鬼だっていうの?」
「そうだ」

ますます理解できない。いままで平凡に暮らしてきたのに急に鬼だなんて言われてはいそうですか、って受け入れられる人なんてそうそういない。それに証拠も何もないのに。

「信じられないわよ、それに仮にその鬼さんがどうして私の処に来るのよ」
「言っただろう、お前は俺の妻になる。血統の良い鬼同士が結ばれれば強い子が産まれる、しかし昨今鬼は混血化が進んでいて純血は珍しい。そしてお前からは純血の強い鬼の力が感じられる」
「子供を産ませられる為に得体のしれない見ず知らずの男についていくなんて冗談じゃなっ…!?」

言葉を遮るように強引に唇を押し付けられて無理矢理咥内を蹂躙される。そのとき男の血のように紅い瞳が黄金色に変化するのを見逃さなかった。

「っ!?」

珍しい金髪もいつの間にか白く染まって、額からは角のようなものも見える。
そして一番驚愕したのは彼の美しい瞳に映った自分の姿だった。彼の瞳に映る私の姿は全くの別人、そうまるで鬼のような…。

「ほらこれで分かっただろう」


心臓を鷲掴みされたみたい、ぎゅっと苦しいのはどういうことなのか。変わってしまった自分の身体が未だに信じられず呆然と男の腕の中に抱かれたまま、ただこの男から逃れられないことは本能的に感じた。


硝子に映える澄んだ白





「俺は風間千景だ、覚えておけ我が妻よ」


110424~110516




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