「土方せんせ」
「なんだよ」
「まだ終わらない?」
「終わらねぇな」

静かな放課後の国語準備室で土方先生と二人きり。結構ドキドキするシチュエーションだけれど先生は仕事に掛かりきり。先生の広い背中を眺めているのは好き。だけど何時間も見ているだけはつまらない。私の方を見てくれないのは面白くない。
呼び出したのは向こうなのにほったらかしのまま時間だけが過ぎていく。

「せんせー帰っていい?」
「帰んなよ」
「だってずっと仕事してるだけだもん、見てるだけじゃ飽きちゃった」

このやり取りも既に何度か繰り返しているけれど、先生はその度帰るなと言う。でも流石に私だって我慢出来なくて通学鞄をもって座っていたソファから立ち上がると、ずっと下を向いていた先生の顔が漸く此方に向いた。

「帰んなって言っただろ」
「だって…」
「ほら」

こっちへ来いと手招きするので大人しく従うと、不意に腕を引かれ身体が傾く。

「うあっ!!」
「もっと可愛い声出せねぇのか、お前は」
「悪かったですよ、可愛くなくて」

先生の胸に思いっきりダイブしてしまって嬉しいやら恥ずかしいやらでそっぽを向くと頭上から笑い声がする。

「拗ねんな」
「拗ねてないもん」
「素直じゃないな」

私が口を開こうとした瞬間、身体がふわりと浮いて土方先生の固い膝の上に下ろされた。お腹に回された腕が逃げるのは許さない、と言わんばかりにぎゅっと絡みついてくる。

「構って欲しかったんだろ?」
「い、いいから。仕事の邪魔になる」
「別に膝の上に乗ってようが仕事は出来る」
「仕事捗らないって」
「じゃあ大人しくしとけよ」

膝の上に私を乗せたまま仕事を再開させるから静かにせざるを得ない。相変わらず心臓は煩いままだ。

それから数十分、そろそろじっとしているのが辛くなってきた頃、先生のペンを動かす手が止まって無遠慮に頭をわしゃわしゃされた。

「せ、せんせい」
「よく大人しくしてれたな」
「もうっ!!」
「ほら構ってやるから」

子ども扱いされるのはちょっと嫌だったけど、構ってもらえるのは正直嬉しかった。ずっと頭を撫で続ける手を止めて指を絡ませてみたりしているとそのまま手が離れなくなった。

「ここじゃなんだしな。部屋に来るか?」
「え、良いの?」
「まぁもともとそのつもりだったしな」

捕まったままだから拒否権はねぇぞ、と先生は笑う。
こっちも逃げるつもりはないから受けてたとうじゃないの、なんて言ったら小突かれました。でも待ってた分は構ってもらわないと割に合わないから、先生の首にしっかり腕を回した。

秘め事の基本項目

学校ではいちゃつくのは控えよう、って言ったけど全然我慢出来ないわ。




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