硝子ケースの中に並ぶ色鮮やかな洋菓子、店内に漂う甘い香りに自然と浮足立つのは仕方がないことだと思う。


「どうしようかな、どれも美味しそうだし」


いつものお気に入りのケーキもいいけど新作も魅力的、うーんいっそのこと気になるの全部買ってしまおうか。財布の中を覗いて思案に暮れていると横から聞こえてきた興奮した声に自然と目がそちらへといった。


「み、見たことないお菓子がいっぱい!!」


エプロンドレスを身に纏った私と同い年くらいの女の子が目をキラキラ輝かせながら食い入る様にしてケースに見入っている。
やっぱりこれだけいろんな種類があると迷うよね、うんうんと1人勝手に仲間意識を芽生えさせてしまう。


「千富さんにお茶請けを買ってきなさいって言われたけど何を買ったらいいんだろう」




「想像以上にあのクリーム甘かったわね」

結局目に留まったもの全部頼んでしまって、半分はお店で食べて半分はお持ち帰り。綺麗に包装された箱を片手にパーラーを出る、足取りは何処となく軽い。


このまま帰ろうか、それとも銀ブラ何処に向うでもなく散策してみるのも偶には良いかも。特に目的もないまま歩き大通りを過ぎた所でふと向こうからやってくる人物に目が離せなくなった。
さっきのパーラーにいた使用人の女の子。両手いっぱいの荷物を抱え、ふらふらと足元の覚束無い様子で歩いおりかなり危なっかしい。


「あ、危ない」


と思っている傍から不安はすぐさま的中してしまう。
足元が見えていなかったのか、少女はベタに小石に躓き辺り一面に荷物をぶちまけた。
赤くなった鼻を抑えて慌てふためく姿を流石に見て見ぬふりは出来ない、…仕方がないな。




「荷物無事で良かったね」
「すみません本当にありがとうございました」
「次は気をつけて、ってその足」
「あ…」

捲れたスカートから覗く膝から擦り剥けて血が垂れていた。それを見た瞬間名前は通行の邪魔にならない場所へ有無を言わさず引っ張っていき鞄から簡易応急処置の道具を取り出すと手際よく傷の手当てを行い始めた。


「そ、そこまでして頂かなくても大丈夫ですから!!」
「ちょっとした怪我でも甘く見てると後で大変なことになるんだから、ほらもう済んじゃったし」
「わざわざすみません、ありがとうございます」
「いいえ」


深々と頭を下げる少女の足元に置いてある大量の荷物が気になって仕方がない。これちゃんと持って帰れるのかな。


「その荷物重いでしょ一人で持って帰れる?」
「なんとか頑張ります!!それにお屋敷までは街鉄に乗りますから」


よいしょ、と腕いっぱいに荷物を抱えやはりよろめいている、不安だ…。


「本当にありがとうございました、それでは失礼します」

「あの…、街鉄の乗り場はそっちじゃないよ」




「はるちゃんは宮ノ杜で働いてるんだ」
「まだまだ失敗ばっかりでいつも怒られてるんですよね」
「最初はみんな失敗するもの、慣れるまでの辛抱だよ」

あまりに危なっかしい彼女を放っておくことも出来ず付き添いを申し出たら案の定丁重にお断りされてしまった。が、彼女の帰る方向が自分の家と同じ方向だと聞いてこれまた強引にお供することに。

はるとは年齢も近いということもありすぐに打ち解けることが出来た。


「そういえばさっき手当してくださったとき凄い慣れてる感じがしたんですけど」
「あぁ、家が病院だからあれくらいは昔からよくやってるの。それにこれでも医者を目指してるから」
「名前さんもお医者様になるんですか!!凄いなぁー、怪我したらまた手当お願いします」
「怪我しないのが一番だけどね」
「うぅ…それはちょっと難しいです」


ころころと表情の変わるはるを見てると飽きないなぁ。


「次は〜〜」
「あ、次降りなきゃ」
「屋敷までは運べそう?」
「はい、これくらいは頑張らないといつまでたっても仕事出来ないままになっちゃうから!!」
「うんじゃあ頑張ってね」
「今日はありがとうございました。今度お礼させてください」
「お礼なんて、そんな大したことしてないからいいって」
「いえ是非させてください。じゃないと気が済みません!!」
「それなら今度銀ブラに付き合ってくれる?」
「はい!!」


元気よく降りて行った後ろ姿を見送って一人街鉄に揺られる。

なんだか予定外のことばっかりだったけどこんな日も悪くない。
次に会うのが楽しみで仕方がなかった。